紋谷のソコヂカラ
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第4次 お掃除隊 始末記
投稿日時:2009/05/27(水) 11:32まったくどうも信じられない。
どうして、彼らはやってくるのだろうか?
一銭にもならないのに。
せっかくの土曜日だというのに。
これが、その家の主に、過去に命を助けられたとか、
返しきれない恩があるとか…
なにかそういう、納得できる理由があるというのならまだ分かる。
しかし、そんなものは髪の毛の先ほどもないのに、
彼らはまたやってきた。
我が家を掃除しにである。
新築のマンションで、部屋がちらかっているから、
ちょっと片付けにきました。なんていうのなら、まだよいのだが、
築十七年の一軒家である。
おそらく、上物の資産価値は購入時の1/5位まで
目減りしたボロ家である。
その上、ここの主は、掃除が苦手。
「四角い所は、どう頑張っても丸くしか掃けない」
そんな、男だ。
外面はよく、内が弱い。
見えるところだけキレイならそれでよいではないか。
と、生きてきた主である。
なにをかいわんや…
掃除のし甲斐があるといえば、これほど、
し甲斐のある家もそうないだろう。
そんな我が家をモノともせずに彼らは、
今日も笑顔でやってきた。
僕(主)は、もう、すでに、
申し訳ありません。 とか、
ありがとうございます。 とか、
感謝しています。 とか、
助かります。とか、
そういう当たり前の言葉では、
迎えることはできないところまできてしまった。
この際、思い切り開き直り…待ってました。
とか…言えるわけもない。
ということで、ただ黙ってすべてを受け入れることになる。
できるなら、お掃除隊ひとりひとりに、
なにか未曾有のピンチが訪れ、
僕が解決できたら、少しは恩返しが出来るのだろうなどと、
思ったりもしてしまう。
お掃除隊のひとりに、今回は、思いきって、
「どうして、あなたは来るのですか?」
と聞いてみた。
「なにを卑屈なことを…」
らしくない…という顔で応えられてしまった。
第4次ともなると、お掃除隊の面々は、
勝手知る我が家となっている。
各々が軍手にマスク姿になるや、
リビング、2階、風呂場に階段…と動き始める。
僕は、外に向かい、夏に向けて、
じゃんじゃん伸び始めた、
家の回りの雑草を抜きに出た。
見てください。この蔓の生命力。
庭から雨どいを伝わり、
2階の手すりを抜けて、
屋根に届かんばかり。
なぜ、あなたは、そんなに元気なの?
この蔓を引き剥がし庭に通じる階段を埋め尽くす雑草を、
抜き、抜き、また抜いた。
2時間ほどして
(お掃除隊は午前中に来てくれるのです)、
お弁当を食べ休憩…
1次~3次までのお掃除隊の活躍で、
粗大ゴミや捨てる衣料品などはもう我が家にはないため、
出るべくして出る、生活ゴミがすでにゴミ袋に分別されている。
「いやあ。4回目ともなると、楽ですね」
「そうそう。もう1回目は大変だった」
「庭は、次回、ぜひやりたいですね…」
もう、業者さんのような会話であります。
ひとことも口が挟めない。もちろん恐縮してであります。
「もんやさん、 カーテン買いに行って来てください」
「はい。わかりました」
どうも、前回のお掃除隊の時に 僕がカーテンを必要だと
言ったらしいのだが、本人は記憶にはない。
僕自身は、カーテン…別になくてもいいのでは…
という人間のはずなのだが…
せっかくのご好意だし、まあ、確かに、
この寸足らずの、しかもピンクの、
…いつだったか、友達夫婦につけられたこのカーテンは、
かなりいただけないし、
2階も、大切な本が、これ以上、
西日に焼かれてゆくのを見るのは忍びがたい。
ということで、もうひとりと、近所のダイエーと
島忠に買出しに行くことになった。
残りの皆さんは、自宅のお掃除を再開してくれている。
1時間半…戻ると、もうあらかたのお掃除は終了していた。
もう洗濯機は何回転もしたのだろう、
選択されたシーツやバスマットが、2階に干されている。
そして、カーテン付け替え、
こちらもお掃除隊の皆さんがやっつけてくれた。
キレイになった部屋に新しいカーテン…
なんか自分の家ではない感じがする。
そして、風呂場…
実は我が家の風呂場は、電気が…ライトが点かない。
???…意味がわからないですか。
はっきり言いましょう。
「1年前に、お風呂場の照明が落ちて以来、
明るい風呂場で風呂に入ったことがないのです」
はい。ええ…そうです。
1年間…ずっと 真っ暗なお風呂場で、
湯船に使ってました。
…もちろん、電球は付け替えようとしました。
…でも電球の問題ではないのです。
どうも、原因は、配線か接触のようで…
もちろん電気屋さん呼ぶしかない…そうは思って…
思っていて…ここまできてしまったのです。
そういう男です。 僕は。
そのことを、お掃除隊のひとりに告げると…
彼は、早速…台にあがり、中を覗き込みます。
「たぶん、無理っすよ。
いいです。いいです。…今度、電気屋さんに…」
しかし、彼はあきらめません。
クレ551…っていうんですか、
そのノズルを中に差し入れ…ゴリゴリと削り…
15分後…パチ!…
「点きましたよ」
なんと、我が家の風呂に、1年ぶりに照明が点いたのです。
馬鹿にしてますか? …してますよね。
でも、僕は、本気で感激しました。マジで。
「だいたい、こういう時は、中がさびているんです。
だから削ってあげれば…ね」
すごい。
僕は、考えました。
こういう男になりたい…と。
人間はピンチになった時に、最後はその生きる力が勝負であり。
こういうことができる男が、最後はいちばん偉いのだと。
普段は、みんな生き死にに関わるピンチなどなどないから、
分からないだけで、本当は、こういう時に頼りになる、
そんな男が、男なのだと。
えっ!?…風呂場の電気は生き死にに関係ない?
…そういうことを言っているんじゃありません。
たぶん、大きなピンチが訪れたとしても、
僕などは、理屈や建前を言うだけで、何の役にも立たない。
使えないその他大勢になってしまう。
そんな自分の小ささを痛感した出来事でした。
ついでに、言うと、キッチンの流しの上の電灯も、
もう点滅状態になって、3ヶ月。
こちらも、自分で、思いついたときに、
蛍光灯を買うのですが、
「まあ、 これで大丈夫だろう」と買ってくると…
長い
また、気がついたときに
「じゃあ …このサイズだろう」と買ってくると…
今度は短い。
オマエは、帯に短し、襷に長し(流し)か…
流しだけに…なんてことを言いながら
腹が立ち…ほっておいたのですが、
今回、ジャストサイズが収まり、
見事、流しも明るくなりました。
夕方、少しまでに第4次お掃除隊も終了。
では、打ち上げに…というと
先ほど、風呂場の照明を復活させてくれた彼が、
用事があるのでお先に…と帰ってしまいます。
「えっ! せめて、ご飯を食べて、
その労を、その活躍を讃えさせていただきたい…」
しかし、どうもどうも…と愛車のパンダに乗り込むと、
行ってしまいました。
その後姿を見送り、隊長が言います。
「彼は、われわれ、他の隊員の中では、
もっとも掃除とは無縁の性格と思っていた。
いったい、何が、彼をここに向かせるのか…わからないなあ~」
…と。
本物の男は去り際も格好いい。
その理由は自分の中…だけにある。
僕は、またまた考えさせられました。
以上、第4次お掃除隊始末記でした。
別名、紋谷不始末記…ですか。
どうして、彼らはやってくるのだろうか?
一銭にもならないのに。
せっかくの土曜日だというのに。
これが、その家の主に、過去に命を助けられたとか、
返しきれない恩があるとか…
なにかそういう、納得できる理由があるというのならまだ分かる。
しかし、そんなものは髪の毛の先ほどもないのに、
彼らはまたやってきた。
我が家を掃除しにである。
新築のマンションで、部屋がちらかっているから、
ちょっと片付けにきました。なんていうのなら、まだよいのだが、
築十七年の一軒家である。
おそらく、上物の資産価値は購入時の1/5位まで
目減りしたボロ家である。
その上、ここの主は、掃除が苦手。
「四角い所は、どう頑張っても丸くしか掃けない」
そんな、男だ。
外面はよく、内が弱い。
見えるところだけキレイならそれでよいではないか。
と、生きてきた主である。
なにをかいわんや…
掃除のし甲斐があるといえば、これほど、
し甲斐のある家もそうないだろう。
そんな我が家をモノともせずに彼らは、
今日も笑顔でやってきた。
僕(主)は、もう、すでに、
申し訳ありません。 とか、
ありがとうございます。 とか、
感謝しています。 とか、
助かります。とか、
そういう当たり前の言葉では、
迎えることはできないところまできてしまった。
この際、思い切り開き直り…待ってました。
とか…言えるわけもない。
ということで、ただ黙ってすべてを受け入れることになる。
できるなら、お掃除隊ひとりひとりに、
なにか未曾有のピンチが訪れ、
僕が解決できたら、少しは恩返しが出来るのだろうなどと、
思ったりもしてしまう。
お掃除隊のひとりに、今回は、思いきって、
「どうして、あなたは来るのですか?」
と聞いてみた。
「なにを卑屈なことを…」
らしくない…という顔で応えられてしまった。
第4次ともなると、お掃除隊の面々は、
勝手知る我が家となっている。
各々が軍手にマスク姿になるや、
リビング、2階、風呂場に階段…と動き始める。
僕は、外に向かい、夏に向けて、
じゃんじゃん伸び始めた、
家の回りの雑草を抜きに出た。
見てください。この蔓の生命力。
庭から雨どいを伝わり、
2階の手すりを抜けて、
屋根に届かんばかり。
なぜ、あなたは、そんなに元気なの?
この蔓を引き剥がし庭に通じる階段を埋め尽くす雑草を、
抜き、抜き、また抜いた。
2時間ほどして
(お掃除隊は午前中に来てくれるのです)、
お弁当を食べ休憩…
1次~3次までのお掃除隊の活躍で、
粗大ゴミや捨てる衣料品などはもう我が家にはないため、
出るべくして出る、生活ゴミがすでにゴミ袋に分別されている。
「いやあ。4回目ともなると、楽ですね」
「そうそう。もう1回目は大変だった」
「庭は、次回、ぜひやりたいですね…」
もう、業者さんのような会話であります。
ひとことも口が挟めない。もちろん恐縮してであります。
「もんやさん、 カーテン買いに行って来てください」
「はい。わかりました」
どうも、前回のお掃除隊の時に 僕がカーテンを必要だと
言ったらしいのだが、本人は記憶にはない。
僕自身は、カーテン…別になくてもいいのでは…
という人間のはずなのだが…
せっかくのご好意だし、まあ、確かに、
この寸足らずの、しかもピンクの、
…いつだったか、友達夫婦につけられたこのカーテンは、
かなりいただけないし、
2階も、大切な本が、これ以上、
西日に焼かれてゆくのを見るのは忍びがたい。
ということで、もうひとりと、近所のダイエーと
島忠に買出しに行くことになった。
残りの皆さんは、自宅のお掃除を再開してくれている。
1時間半…戻ると、もうあらかたのお掃除は終了していた。
もう洗濯機は何回転もしたのだろう、
選択されたシーツやバスマットが、2階に干されている。
そして、カーテン付け替え、
こちらもお掃除隊の皆さんがやっつけてくれた。
キレイになった部屋に新しいカーテン…
なんか自分の家ではない感じがする。
そして、風呂場…
実は我が家の風呂場は、電気が…ライトが点かない。
???…意味がわからないですか。
はっきり言いましょう。
「1年前に、お風呂場の照明が落ちて以来、
明るい風呂場で風呂に入ったことがないのです」
はい。ええ…そうです。
1年間…ずっと 真っ暗なお風呂場で、
湯船に使ってました。
…もちろん、電球は付け替えようとしました。
…でも電球の問題ではないのです。
どうも、原因は、配線か接触のようで…
もちろん電気屋さん呼ぶしかない…そうは思って…
思っていて…ここまできてしまったのです。
そういう男です。 僕は。
そのことを、お掃除隊のひとりに告げると…
彼は、早速…台にあがり、中を覗き込みます。
「たぶん、無理っすよ。
いいです。いいです。…今度、電気屋さんに…」
しかし、彼はあきらめません。
クレ551…っていうんですか、
そのノズルを中に差し入れ…ゴリゴリと削り…
15分後…パチ!…
「点きましたよ」
なんと、我が家の風呂に、1年ぶりに照明が点いたのです。
馬鹿にしてますか? …してますよね。
でも、僕は、本気で感激しました。マジで。
「だいたい、こういう時は、中がさびているんです。
だから削ってあげれば…ね」
すごい。
僕は、考えました。
こういう男になりたい…と。
人間はピンチになった時に、最後はその生きる力が勝負であり。
こういうことができる男が、最後はいちばん偉いのだと。
普段は、みんな生き死にに関わるピンチなどなどないから、
分からないだけで、本当は、こういう時に頼りになる、
そんな男が、男なのだと。
えっ!?…風呂場の電気は生き死にに関係ない?
…そういうことを言っているんじゃありません。
たぶん、大きなピンチが訪れたとしても、
僕などは、理屈や建前を言うだけで、何の役にも立たない。
使えないその他大勢になってしまう。
そんな自分の小ささを痛感した出来事でした。
ついでに、言うと、キッチンの流しの上の電灯も、
もう点滅状態になって、3ヶ月。
こちらも、自分で、思いついたときに、
蛍光灯を買うのですが、
「まあ、 これで大丈夫だろう」と買ってくると…
長い
また、気がついたときに
「じゃあ …このサイズだろう」と買ってくると…
今度は短い。
オマエは、帯に短し、襷に長し(流し)か…
流しだけに…なんてことを言いながら
腹が立ち…ほっておいたのですが、
今回、ジャストサイズが収まり、
見事、流しも明るくなりました。
夕方、少しまでに第4次お掃除隊も終了。
では、打ち上げに…というと
先ほど、風呂場の照明を復活させてくれた彼が、
用事があるのでお先に…と帰ってしまいます。
「えっ! せめて、ご飯を食べて、
その労を、その活躍を讃えさせていただきたい…」
しかし、どうもどうも…と愛車のパンダに乗り込むと、
行ってしまいました。
その後姿を見送り、隊長が言います。
「彼は、われわれ、他の隊員の中では、
もっとも掃除とは無縁の性格と思っていた。
いったい、何が、彼をここに向かせるのか…わからないなあ~」
…と。
本物の男は去り際も格好いい。
その理由は自分の中…だけにある。
僕は、またまた考えさせられました。
以上、第4次お掃除隊始末記でした。
別名、紋谷不始末記…ですか。
顔の話
投稿日時:2009/05/14(木) 01:25立花隆先生に似ていると言われたことがある。
横尾忠則先生にも似ていると言われたことがある。
ついでに言うと、バンダナを巻いて会社に行くと、
泉谷しげる にも似ていると言われたことがある。
嬉しくはない。
いずれも、ひとかどの人物ではあるものの、
中味ではなく外見のこと故、うれしいはずもない。
もじゃもじゃでタレ目の風貌が…似ていると言われても、
はなはだ迷惑でしかない。
ただ、最近ではこういうコメントはなくなり、
銀座の紋家時代は、リリーフランキーさんに似ていると言われ、
ここ最近は…誰かに似ていると言われなくなった。
顔が変わったのだろうか…
抗がん剤で、あらゆる毛が抜けてしまえば、
誰かに似ているどこの話ではないので、
そのせいもあったのだろうし、まあ、今の僕が誰と似ていようと、
お会いする方は、そんな悠長なコメントを発するはずもなかろうから
…当たり前といえば当たり前なのだが…
寂しい気もする。
男は、顔である。
ある程度、人生を重ねると、その人間性は顔に出る。
手前味噌だが、わが母は魚屋小町といわれるほどに、
キレイな人でした。
高校の授業参観(母はすでに50歳手前くらいにもかかわらず)…
その授業…英語のリーダーであったと思いますが、
終了後、先生が
「もんやのお母さんはきれいな人だなあ…」
とわざざわ声をかけてきたことを思い出した。
昔の写真などを見ると…確かにそうだと思う。
父も色男。美男美女のカップルから、
どうしてこういう顔の僕が生まれたのか…謎としかいえない。
幼少の頃、盲腸で入院した時に、となりのベッドのあんちゃんが
「オマエは橋の下で拾われたんだなあ~」
と言われたことがショックで眠れなかったことも思い出した。
芸能人で言えば 武田真治や藤原竜也のような顔に生まれたかった。
あと、声も重要だからこっちは国村隼 津田寛治 北村有起哉…
このあたりが最高です。
…まあ どうでもいいことなのですが、
けっこうまじめにそう思っている。
男は顔です。
ブラウン管に登場する 政治家や経済人、文化人、芸能人…
そして一般人も、その顔を見た瞬間に…
その内面も透けて見えることがある。
性格も価値観も…顔に出る。
この人、相性よさそう…ってひらめきも、
お会いした瞬間の印象とその後、あまりずれることはない。
饒舌である。人当たりがよい。
知識が豊富だ…などとういうことは実はどうでもよい。
ごちゃごちゃあっても、やはり、顔である。
決して、造作のよくない顔でも、
中味がよければ、顔に現われるものだろう。
そう。造作のよさに越したことはないが、
要するに、「いい顔」であればよいのだ。
また、人間、ピンチな時にこそ、顔である。
その意味では男女の別は問わないが…
男は、その内面が…顔に出やすい生き物だと思う。
だから、しんどい時こそ 顔を確認です。
よい顔をしている
…そういうところを目指そう。
ちょっと余談。
立花隆先生で、思い出したが、15年前の入院の時、
お見舞いで、先生の新刊書を頂いた。
「ぼくはこんな本を読んできた」文芸春秋
多い日は この本を1日5冊。
来る方、来る方、皆さんこの本を持参してくる。
これには参った。
途中から、ベットの下に隠すようになった。
ぜんぶで15冊溜まってしまった。
考えた。
「お見舞い何にしよう?…もんやは 本好き…
では本屋さんに…お!平積みの新刊…よしこれにしよう」
こういう構図だったに違いない。
僕の顔が似ているから…かもしれないが。
しかし、この本…正直、入院して読む本ではないと思った。
哲学、政治経済、サイエンス…時事問題全般
あらゆるジャンルに高い見識をお持ちの先生の人生の愛読書が、
僕のような俗物に、面白かろうはずもない。
今だから告白しますが、すべて病院に寄付しました。
同じ本を15冊。当時の婦長さんはびっくりしていました。
お見舞いで、いただいた品物なのに、皆さん、ごめんなさい。
勘弁してください。
今は、病人に見られるのがしんどいので、
なるべくそう見えないように頑張ることにしている。
僕の顔に元気がなければ、お会いしても迷惑だろうと本気で思うし、
なにより、自分の内なるちからが湧いてこない。
「 ひええ~俺より元気な顔してるじゃん!」
このくらいがよいと、思っている。
後輩から電話をもらった。
会社をつぶし、債権者対策に追われながらも心は折れていないと言う。
身近に迷惑をかけたが、その分は必ず復活して恩を返す…とも言う。
「いい顔してろよ!」
柄にもなく、言ってしまい…電話を切った。
少し考えながら …書いていたら
こんな文章になってしまった。
ご勘弁。
這えば立つ…立てば歩く…歩けば喋り考える
投稿日時:2009/05/05(火) 19:55「はい。 ワタシは40歳です。
妻は35歳…幼稚園に通う…ひとり娘のことで…心配になりまして、
ご相談できればと…。
3ヶ月ほど前に、娘が園でお漏らしをしまして、
それ以来、幼稚園に行きたくないと…ええ…
それはもう、大変に駄々をこねていまして。
もう、毎朝、泣き叫ぶんです。
だいじょうぶだからっていくら言って聞かせても、きかなくて。
えっ?…送り迎えですか?…それは妻が毎朝。
はい…共稼ぎです。妻の仕事ですか?
夜は近所のスナックに出ています。
ええ。帰りは遅いです。
朝は娘のお弁当を作って、…そうです。
車で5分くらいの距離です、妻が送っていきます。
帰りも妻が迎えにいきます。
その後は、となりに義理の母が住んでいるものですから、
預けて、そのまま仕事に。
はい。私が仕事を終えて、帰りに迎えに行きます。
食事は…義理の母の家で、ええ、そうです。毎日。
で、夜はワタシが寝かしつけてます。
なにが気に入らないのか、わからなくて。
…幼稚園の先生に聞いても、別に誰かにいじめられている
ということはないようで…はい
…連絡ノートですか、妻が書いています。
…そんな感じですので、たまに幼稚園をお休みするようになってしまって…。
そういう日は、クラスのお友達が、連絡ノートや給食を届けてくれるんですが、
顔も見せず…自分の部屋に閉じこもってしまうんです。
あと、すぐトイレに…はい…日に、何度も何度も
…これまではそういうことはなかったものですから…ええ
…どうしたらいいのか…皆目、見当が付かなくて…
はい…お願いします」
◆◆◆
逗子に住むM氏には、2人の男の子がいる。
ひとりでも、やんちゃなのだが、2人揃うと、
そのやんちゃ度合いは、2乗のパワーをもつ。
ただ、男兄弟とはそうしたものなのか…
何事にも“お構いなし”に突き進む弟に比べると、
少し年上のお兄ちゃんには、どこか思慮分別を感じる。
ひと晩のお世話になり、朝のこと。
お兄ちゃんはすでに小学校に出かけていて、M氏はまだお休み。
奥さんはお勝手に。
リビングには弟君ひとりである。
「おはよう」
「……」
なんの反応もない。ただ、ジロリ…と見る。
パンとスープの脇にプレートがあり、
なにか黄色いぽろぽろとしたものを格闘している。
「何を食べているのかな?」
見ると、ゆで卵の白身と黄身を分けて、その白身だけを食べている。
「黄身が美味しいのに…食べないの?」
「…ジロリ…」
奥さんが、僕の分も用意してくれて、弟君と差し向かいでの朝食となった。
無言のテーブル。
機嫌の悪い、おやじのようである。
突然「行くよ!」とキッチンに声をかけ、立ち上がる弟君。
「はい。はい。」と奥さんが応える。
予め、準備していた、ランドセルを手に取ると、
そのまま玄関へと向かう。
テーブルには、黄身の残骸が残されたままだ。
聞くと、歩いて10分ほどのところに、
迎えのバスが来て、それに乗ると言う。
面白そうなので、ついていくことにした。
奥さんと弟君が歩く後を、5メートルくらい空けて。
「ああ、この空き地に、もう○○が咲いたね」
「今日は、体操があるのよね 」
「○○ちゃんはお風邪治ったのかなあ…?」
喋るのはほとんど奥さん。
弟君は、「うん」としか言わない。
坂を下り、住宅街を抜けると、バス通りがあり、迎えの場所に着いた。
そこには、バスを待つ、お母さんと子供達が20人くらい
すでに集まっていた。
どう考えても 場違いな自分のせいで、あらぬ詮議は申し訳ないと、
「主人の、会社の先輩です」という奥さんの紹介に併せて、
ご挨拶をしていると。
突然、弟君から声がかかった…
「僕が一番好きな お友達の○○君」
とひとりの男の子を紹介する。僕を見て、初めて笑った。
どうやら、僕が着いてきたことは分かっていたらしい。
帰り道、奥さんに聞いた。
「いつも、あんな感じ?」
「今朝は、もんやさんがいたんで緊張していたんです」
と言う。そうか、朝、こんなおじさんがいて、
目の前に座ったら、ごはんも食べづらいし、
なんだかとことこ付いてきたら、そりゃあ…気になるわよな。
当たり前の些細なことながら、大人は気がつかない。
しかし、この奥さんは大物だと感じた。
見ていて気づいたのですが、いちいち些細なことを叱らない。
だいたいが鷹揚に、わが子を見守っている。
それでも、気づくべきところはちゃんと気がついている。
残された黄身が気になって仕方がない、
僕などは小物だと改めて感じた朝でした。
後日、兄弟に“ジェンガ”を送ると、お礼のお手紙が届いた。
お兄ちゃんは「ありがとう」のコメント(奥さん代筆)
弟君からは なにやら “のたくった”イラストに ひとこと…
あおむし とある。
どうも、それが彼のお礼らしい。(笑)
材木座の兄弟も、相当にパワーがある。
お兄ちゃんは、クラスにひとりはいる、女子の人気NO1のタイプ。
利発そうな顔でスポーツマン。対する弟はセンスの塊。
その上、大人殺し。
例えるなら、新劇の役者のような…
艶かしさを併せ持ち、大人を篭絡する。
この奥さんの料理が、また素晴らしい。
うまいうまいはもちろんながら、なにより、センスがいい。
食べることに執着心のある母親に育てられると、
食べることへの執着心はひと一倍強くなる。
それがボクです。
また、食事のマナーもうるさく躾けられた。
食事の前に間食は許さない。
テレビ観ながらなど言語道断。
ご飯は残してもおかずは残すな。
自分の食べた食器は、自分で洗え。…云々。
材木座の兄弟は、回りを飛び回り、我々の食卓に来襲しては、
手づかみで、おかずをさらって行く。
大人の邪魔をしてはいけない。と、テレビみたい。と、遊びたい。と、
お腹すいた、がこんがらがった感じだ。
そんな、中でも、奥さんは絶妙に、
我々と子供達に、食べさせるタイミングを心得ている。
弟君が、自分の好きなおかずだけを、もう、好きなだけ食べても、
まあよしよし。
遠慮している、お兄ちゃんの分も、さっと用意して渡す。
どの料理も、栄養面の配慮が行き届いているから、
どう食べようと、体にうまく、収まるようになっている。
男どもが、どうこようとも 対応できる、プロの手際。
途中、走り回る弟君が、テーブルにぶつかり、飲み物が床にこぼれた。
「おい!!○○!!…うるさい!!
……いい加減にしろ!……ごめんなさいは!」とパパの怒声が飛ぶ。
やっちまった弟君を、奥さんは叱らない。
もう、言うべきことはパパは言ったから。
さっと雑巾で床を拭き、弟君の顔を羽交い絞めにする。
それだけ。
飲み物をこぼしたのは、おにいちゃんのせいだ…
と言い訳をしていた弟君が、その優しい羽交い絞めで大人しくなる。
パパがいない時は、ママは違うのだろう。
怒りもするのだろう。
北風も必要だが、太陽も必要。
そういうことを垣間見た。
◆◆◆
その、告白は、車のラジオでたまたま聞いた。
ニッポン放送 テレフォン人生相談。
僕はこう思った。
「それは スナックで働き始めた奥さんに男ができたんだ。
それで、夫婦仲がぎくしゃくして
…そういうことを娘は感じ取って、
…そうだよなあ…それしかない」…と。
その男性の相談を受けて、幼児教育研究の大原敬子女史が応える。
「あなた方夫婦は、機能で子育てをしている。いい?
…彼女は賢いわよ。幼稚園でお漏らししたことを聞いて、
迎えに行ったのは奥さんよね?…そこに替えの下着は持っていった?
忘れたでしょ。それがいけないの。
彼女は、いけないことをした…恥ずかしい…
ママは着替えを持ってきてくれなかった…
ああ、ワタシのことはどうでもいいの? そう思ったの。
休んだ子に物を届ける役目は、クラスでも出来るお友達になるわよね。
自分の恥ずかしい失敗をその出来るお友達が来るたびに思い出すの彼女は。
何をしてもそのことを思い出すの…
だから頻繁にトイレに行くの。わかる?
もう、失敗しちゃいけない。いけないって自分に言い聞かせているのよ。
泣くことはいいこと。泣かないほうが怖いわよ。
泣くには泣く理由があるの、彼女は
ワタシノコトハ、ドウデモイイノ?って泣いているの。
車で5分なら、明日から自転車か歩きで送りなさい。
それで、少し早く出て、幼稚園に付いても、
その回りをわざと1周するの…
そこでね “ああ…ママ○○ちゃんとお別れしたくないなあ~”
って言ってあげるの。
お迎えもそう…彼女が来たら、ひざをついてね。
彼女の目線でね。思いっきり笑顔で抱きしめるの。
手首をつかみなさい。そうして抱き寄せるの。
そうすると、密着するでしょ。そういうことが大事。
あと、連絡帳には、親の感想ではなくて、
今日、娘がなにしたを書けばいいの。書けないのは見ていない証拠。
いっしょにいる時間じゃないのよ。
旦那さんやお母さんに聞けばいいの…それだけ。
あと、お母さんところで食事させてるでしょ。
何を食べているか知っている?ジュースとかお菓子ばかりあげてない?
甘いものは辛抱がなくなるのよ。
今は泣いているだけだけど、小学校3歳4歳で、
このままだと、彼女キレルわよ。」
下世話な発想しかできない自分のレベルの低さに恥じ入り、
まるで、謎を解く名探偵のごとく、
立て板に水で叱咤する大原女史に感服。
「子供は、親とは別の人格ということを理解できないのは、あなたが子供だから」
という持論をお持ちだけに、手厳しいが、
同級生と先生のお尻を蹴飛ばし、逃げようとする子供を、
壁に押し付け、叱責した先生を…ただ体罰はけしからん!
…と訴えるような親のいる現代、
誰かのせいにするまえに、ぜひラジオでもつけてみてはと思う。
本気で思う。
僕の回りの、夫婦はみな、このへん
…子育てのツボ(愛のあり方とでもいうのか)
このあたりがが分かっている。
特に奥さんが見事にわかっている。
…そういう奥さんを見つけた、
旦那がすごいということになるのか。うらやましい。
(注)相談者 大原女史 両コメントとも
ラジオでその場で聴いた限りのため、詳細…とくに言い回しや順番は
100%正確ではありませんが、80%は確実にこの通りです。
念のため。
妻は35歳…幼稚園に通う…ひとり娘のことで…心配になりまして、
ご相談できればと…。
3ヶ月ほど前に、娘が園でお漏らしをしまして、
それ以来、幼稚園に行きたくないと…ええ…
それはもう、大変に駄々をこねていまして。
もう、毎朝、泣き叫ぶんです。
だいじょうぶだからっていくら言って聞かせても、きかなくて。
えっ?…送り迎えですか?…それは妻が毎朝。
はい…共稼ぎです。妻の仕事ですか?
夜は近所のスナックに出ています。
ええ。帰りは遅いです。
朝は娘のお弁当を作って、…そうです。
車で5分くらいの距離です、妻が送っていきます。
帰りも妻が迎えにいきます。
その後は、となりに義理の母が住んでいるものですから、
預けて、そのまま仕事に。
はい。私が仕事を終えて、帰りに迎えに行きます。
食事は…義理の母の家で、ええ、そうです。毎日。
で、夜はワタシが寝かしつけてます。
なにが気に入らないのか、わからなくて。
…幼稚園の先生に聞いても、別に誰かにいじめられている
ということはないようで…はい
…連絡ノートですか、妻が書いています。
…そんな感じですので、たまに幼稚園をお休みするようになってしまって…。
そういう日は、クラスのお友達が、連絡ノートや給食を届けてくれるんですが、
顔も見せず…自分の部屋に閉じこもってしまうんです。
あと、すぐトイレに…はい…日に、何度も何度も
…これまではそういうことはなかったものですから…ええ
…どうしたらいいのか…皆目、見当が付かなくて…
はい…お願いします」
◆◆◆
逗子に住むM氏には、2人の男の子がいる。
ひとりでも、やんちゃなのだが、2人揃うと、
そのやんちゃ度合いは、2乗のパワーをもつ。
ただ、男兄弟とはそうしたものなのか…
何事にも“お構いなし”に突き進む弟に比べると、
少し年上のお兄ちゃんには、どこか思慮分別を感じる。
ひと晩のお世話になり、朝のこと。
お兄ちゃんはすでに小学校に出かけていて、M氏はまだお休み。
奥さんはお勝手に。
リビングには弟君ひとりである。
「おはよう」
「……」
なんの反応もない。ただ、ジロリ…と見る。
パンとスープの脇にプレートがあり、
なにか黄色いぽろぽろとしたものを格闘している。
「何を食べているのかな?」
見ると、ゆで卵の白身と黄身を分けて、その白身だけを食べている。
「黄身が美味しいのに…食べないの?」
「…ジロリ…」
奥さんが、僕の分も用意してくれて、弟君と差し向かいでの朝食となった。
無言のテーブル。
機嫌の悪い、おやじのようである。
突然「行くよ!」とキッチンに声をかけ、立ち上がる弟君。
「はい。はい。」と奥さんが応える。
予め、準備していた、ランドセルを手に取ると、
そのまま玄関へと向かう。
テーブルには、黄身の残骸が残されたままだ。
聞くと、歩いて10分ほどのところに、
迎えのバスが来て、それに乗ると言う。
面白そうなので、ついていくことにした。
奥さんと弟君が歩く後を、5メートルくらい空けて。
「ああ、この空き地に、もう○○が咲いたね」
「今日は、体操があるのよね 」
「○○ちゃんはお風邪治ったのかなあ…?」
喋るのはほとんど奥さん。
弟君は、「うん」としか言わない。
坂を下り、住宅街を抜けると、バス通りがあり、迎えの場所に着いた。
そこには、バスを待つ、お母さんと子供達が20人くらい
すでに集まっていた。
どう考えても 場違いな自分のせいで、あらぬ詮議は申し訳ないと、
「主人の、会社の先輩です」という奥さんの紹介に併せて、
ご挨拶をしていると。
突然、弟君から声がかかった…
「僕が一番好きな お友達の○○君」
とひとりの男の子を紹介する。僕を見て、初めて笑った。
どうやら、僕が着いてきたことは分かっていたらしい。
帰り道、奥さんに聞いた。
「いつも、あんな感じ?」
「今朝は、もんやさんがいたんで緊張していたんです」
と言う。そうか、朝、こんなおじさんがいて、
目の前に座ったら、ごはんも食べづらいし、
なんだかとことこ付いてきたら、そりゃあ…気になるわよな。
当たり前の些細なことながら、大人は気がつかない。
しかし、この奥さんは大物だと感じた。
見ていて気づいたのですが、いちいち些細なことを叱らない。
だいたいが鷹揚に、わが子を見守っている。
それでも、気づくべきところはちゃんと気がついている。
残された黄身が気になって仕方がない、
僕などは小物だと改めて感じた朝でした。
後日、兄弟に“ジェンガ”を送ると、お礼のお手紙が届いた。
お兄ちゃんは「ありがとう」のコメント(奥さん代筆)
弟君からは なにやら “のたくった”イラストに ひとこと…
あおむし とある。
どうも、それが彼のお礼らしい。(笑)
材木座の兄弟も、相当にパワーがある。
お兄ちゃんは、クラスにひとりはいる、女子の人気NO1のタイプ。
利発そうな顔でスポーツマン。対する弟はセンスの塊。
その上、大人殺し。
例えるなら、新劇の役者のような…
艶かしさを併せ持ち、大人を篭絡する。
この奥さんの料理が、また素晴らしい。
うまいうまいはもちろんながら、なにより、センスがいい。
食べることに執着心のある母親に育てられると、
食べることへの執着心はひと一倍強くなる。
それがボクです。
また、食事のマナーもうるさく躾けられた。
食事の前に間食は許さない。
テレビ観ながらなど言語道断。
ご飯は残してもおかずは残すな。
自分の食べた食器は、自分で洗え。…云々。
材木座の兄弟は、回りを飛び回り、我々の食卓に来襲しては、
手づかみで、おかずをさらって行く。
大人の邪魔をしてはいけない。と、テレビみたい。と、遊びたい。と、
お腹すいた、がこんがらがった感じだ。
そんな、中でも、奥さんは絶妙に、
我々と子供達に、食べさせるタイミングを心得ている。
弟君が、自分の好きなおかずだけを、もう、好きなだけ食べても、
まあよしよし。
遠慮している、お兄ちゃんの分も、さっと用意して渡す。
どの料理も、栄養面の配慮が行き届いているから、
どう食べようと、体にうまく、収まるようになっている。
男どもが、どうこようとも 対応できる、プロの手際。
途中、走り回る弟君が、テーブルにぶつかり、飲み物が床にこぼれた。
「おい!!○○!!…うるさい!!
……いい加減にしろ!……ごめんなさいは!」とパパの怒声が飛ぶ。
やっちまった弟君を、奥さんは叱らない。
もう、言うべきことはパパは言ったから。
さっと雑巾で床を拭き、弟君の顔を羽交い絞めにする。
それだけ。
飲み物をこぼしたのは、おにいちゃんのせいだ…
と言い訳をしていた弟君が、その優しい羽交い絞めで大人しくなる。
パパがいない時は、ママは違うのだろう。
怒りもするのだろう。
北風も必要だが、太陽も必要。
そういうことを垣間見た。
◆◆◆
その、告白は、車のラジオでたまたま聞いた。
ニッポン放送 テレフォン人生相談。
僕はこう思った。
「それは スナックで働き始めた奥さんに男ができたんだ。
それで、夫婦仲がぎくしゃくして
…そういうことを娘は感じ取って、
…そうだよなあ…それしかない」…と。
その男性の相談を受けて、幼児教育研究の大原敬子女史が応える。
「あなた方夫婦は、機能で子育てをしている。いい?
…彼女は賢いわよ。幼稚園でお漏らししたことを聞いて、
迎えに行ったのは奥さんよね?…そこに替えの下着は持っていった?
忘れたでしょ。それがいけないの。
彼女は、いけないことをした…恥ずかしい…
ママは着替えを持ってきてくれなかった…
ああ、ワタシのことはどうでもいいの? そう思ったの。
休んだ子に物を届ける役目は、クラスでも出来るお友達になるわよね。
自分の恥ずかしい失敗をその出来るお友達が来るたびに思い出すの彼女は。
何をしてもそのことを思い出すの…
だから頻繁にトイレに行くの。わかる?
もう、失敗しちゃいけない。いけないって自分に言い聞かせているのよ。
泣くことはいいこと。泣かないほうが怖いわよ。
泣くには泣く理由があるの、彼女は
ワタシノコトハ、ドウデモイイノ?って泣いているの。
車で5分なら、明日から自転車か歩きで送りなさい。
それで、少し早く出て、幼稚園に付いても、
その回りをわざと1周するの…
そこでね “ああ…ママ○○ちゃんとお別れしたくないなあ~”
って言ってあげるの。
お迎えもそう…彼女が来たら、ひざをついてね。
彼女の目線でね。思いっきり笑顔で抱きしめるの。
手首をつかみなさい。そうして抱き寄せるの。
そうすると、密着するでしょ。そういうことが大事。
あと、連絡帳には、親の感想ではなくて、
今日、娘がなにしたを書けばいいの。書けないのは見ていない証拠。
いっしょにいる時間じゃないのよ。
旦那さんやお母さんに聞けばいいの…それだけ。
あと、お母さんところで食事させてるでしょ。
何を食べているか知っている?ジュースとかお菓子ばかりあげてない?
甘いものは辛抱がなくなるのよ。
今は泣いているだけだけど、小学校3歳4歳で、
このままだと、彼女キレルわよ。」
下世話な発想しかできない自分のレベルの低さに恥じ入り、
まるで、謎を解く名探偵のごとく、
立て板に水で叱咤する大原女史に感服。
「子供は、親とは別の人格ということを理解できないのは、あなたが子供だから」
という持論をお持ちだけに、手厳しいが、
同級生と先生のお尻を蹴飛ばし、逃げようとする子供を、
壁に押し付け、叱責した先生を…ただ体罰はけしからん!
…と訴えるような親のいる現代、
誰かのせいにするまえに、ぜひラジオでもつけてみてはと思う。
本気で思う。
僕の回りの、夫婦はみな、このへん
…子育てのツボ(愛のあり方とでもいうのか)
このあたりがが分かっている。
特に奥さんが見事にわかっている。
…そういう奥さんを見つけた、
旦那がすごいということになるのか。うらやましい。
(注)相談者 大原女史 両コメントとも
ラジオでその場で聴いた限りのため、詳細…とくに言い回しや順番は
100%正確ではありませんが、80%は確実にこの通りです。
念のため。
食客
投稿日時:2009/04/25(土) 09:30「韓流ドラマ…なんて観るかい!」
ずっとそう思っていた。
今までも…これからも…そのジャンルはありえない…
自分は…と。
しかし、不覚にも…いや必然にも(笑)
はまってしまった。見事に。
今回は、その言い訳を聞いてください。
「冬のソナタ」から始まった韓流ブーム…
もうだいぶん経ったなあ…と感じませんか、
でも、まだ5年であります。
町のビデオ屋さんの韓国ドラマのコーナーがどんどん増設され、
韓国のスターが次々に生まれ、
草薙君が韓国語をマスターした頃には、
もうあたり一面、韓国ブームに沸いていた。
日本人が忘れてしまった
優しさや…純粋な気持ち…そして気骨
惹かれる気持ちも分からないではないのですが、
かといって「ヨン様もチェジゥ様も …」自分には無縁のものと、
決めていました。
なんか、はじめから漂う
「悲劇やっちゃいますよ~でも最後は、感激しますよ」
的なオーラが、どうも、受け付けなかったんだと思います。
「わたし 泣きにゆくの」とか
「感動したいから観るの」
そういうものは準備するものではないような気がして、
敬遠していました。
その後の「秋の童話」や「天国の階段」…
「ホテリア」「夏の香り」
女性を中心として、韓国ドラマのフェチさん達から
「いいわよおお」なんて いくら薦められても、
食指は動きませんでした。
「一家で観てます“太大四神記”」と言われても、
「へえ~僕は、韓国ドラマ観たことないけど、映画はよく観るよ」
と、スルーしていました。
ここで、もう少し
「どのへんがよいのかなあ?」などと質問していたら、
今回、言い訳もする必要はなかったかもしれません。
なぜなら、ドラマも進化していた…らしいからです。
韓国ドラマを1本しか、まともに見ていない
にわかファンの僕には語る資格がないとは思いますが、
日本のメロドラマを模したその作風だけで、
今日まで、韓流ブームが続くわけは、そもそもないことは、
よく考えればわかります。
しかも、この飽きっぽいことこの上ない、
日本と言うマーケットで。
ドラマは観ていないのですが、韓国映画は大変好きで…
「シュリ」以降、かなりへヴィーに観ています。
ガツン!! と来たのは…
…いかんいかん 韓国映画について語るとそうとう長くなるので
またに回します。
ただ、いいたいことは、「シュリ」以降…韓国映画は、
その質において、目を見張り、脱帽する進化を遂げているということです。
また、ジャンルも多岐にわたり、そのどれもが、独自に進化している。
脚本のうまさが秀逸だから、大河ものからコミカルなもの、
恋愛映画も社会派ドラマも…素晴らしい出来です。
特に僕が好きな社会派の映画は、
リアリティーの追求に手を抜かないことで、
「濃い」テーマを現代の映像技術に乗っけて表現していますから、
とにかく ガツン!ガツン! 来ます。
ああ…語ってしまう。
話しを戻すと、映画は観ていましたが
ドラマにはまったく興味なしの そんな自分でした。
「食客」
はじめは、WOWOWのちら見…
だったのが…身を乗り出すようになり、録画を重ね…
昨日の最終回は…放送時間に合わせてテレビの前に…
手をもみもみして座ることに。
ドラマは 昨年 韓国SBSで、放送されました。
原作は100万部のべストセラーのコミックです。
主演は「ひまわり」のキム・レウォン。
テーマはタイトル通りに 「食」がベース。
韓国最大の宮廷料理店「雲岩亭」を舞台に、
主人公を巡りさまざまな人間が繰り広げるドラマです。
見所はやはり、「料理」 です。
雲岩亭の料理を継承する後継者を選ぶために、
主人公が、実の兄や 厨房の同僚と対決したり、
店の味の決め手 受け継がれた“醤(ジャン)”の復活に、主人公が奔走したり、
幻のスープの味を再現したり…牛肉の品評会があったり…
と、毎回、さまざまな「韓国の食」が織り込まれています。
ラストは、世界制覇をもくろむ、日本のレストランチェーンのオーナーに
乗っ取られそうになる「雲岩亭」…
不仲になってしまった 兄弟が…亡き父親のために一致団結し
戦いを挑んでゆくのです。
笑顔の貴公子…キム・レウォン
主人公の兄に クォン・オジュンが演じ、
女性陣は 天真爛漫な女性記者にナム・サンミ
美しく聡明な 雲岩亭の経営室長にキム・ソヨンと
イケメンと美女を配していること以上に、
24話と長丁場でひきつける魅力が随所にあるドラマです。
韓国では視聴率が20%を越えて大ヒットしたそうですが、
確かに面白かったです。
もちろん、日本の「無駄な演出を排した脚本や台詞まわし」
になれた目には、話しの流れや、わざとらしい「セリフ」に
あれえ~なんて違和感もあります。
特に、肝心の出来上がった料理がいまひとつ
うまそうに見えないということなどは、(笑)
映像技術の問題だったりするのでしょうが、
それでもいつの間にか、主人公のひたむきな在り方とその笑顔に
…不肖 紋谷 ひきつけられてしまいました。
と、ここまでが 言い訳ですが…
今までの韓国ドラマにはなかった 「食」というテーマが
大ヒットした韓国ドラマ…
これからも新しいジャンルでの進化が見られると思われます。
これを機に、韓流ドラマフェチには…なるかどうかは
自分でもわかりませんが。
ちなみに、「食客」
このGWに 映画も日本で公開されます。
(キャストは替わっているので、そこは残念ですが)
釜山国際映画祭のフィルムマーケットでも大人気で、
海外バイヤーの多くが購入のオファーを出したそうです。
日本からも3.4社の配給会社が動いたのですが、
監督は「日本には売らない」と即断したそうです。
その理由は、 映画の後半に描かれた「日本の扱い」を巡り、
手直し(編集)を日本側が要求したからとのこと。
韓国⇒日本の葛藤について、日本人が不快感を持つので
…という要求に対して、
「利益のために作品を傷つけることも話しにならないが、
歴史的理由ならなおさらのこと」と。
それが、どんな経緯でこのGWに公開されることになったのかまでは
知りませんが、僕としては うれしい話し
もちろん、映画祭での公開フィルムのままでの上映を期待しています。
…WOWOWでの放送が 昨夜最終回 …草薙君笑える
頑張れ …そんなこんなで 今回はこんな話しでした。
壮年諸氏に向けて
投稿日時:2009/04/20(月) 09:53「草原の椅子」
毎日新聞社・幻玄社文庫・新潮文庫
この本は四十歳過ぎた壮年の男性には
ぜひお読みいただきたい小説です。
宮本輝さんの小説との初めての出会いは
「青が散る」
テレビドラマ化されたこともあり、興味を持ち、
読んだのがきっかけでした。
郊外に新設された、3流大学での青春群像劇。
ドラマでは、まだ、若かりし佐藤浩一や石黒賢、
遠藤憲一、川上麻衣子などが…校舎の裏手の空き地を
整備して、テニス部を作ってゆくという話しで、
毎回、欠かさず見ていていました。
当時、僕自身も大学に入学したてだったこと、と、
テニスは中学から続けていたので、
そんな親近感もあったのでしょうが、
ともに、ドラマ初出演である、石黒賢と二谷友里恵の主人公二人が、
その演技のあまりのひどさにも関わらず、
妙に芯に残る演出が印象的であり、
そこにひきつけられたように思います。
また、ドラマの終わりが、期待している終わり方ではなく、
そこに物足りなさを覚え、これは小説を読めば、答えが分かるかも…
という気持ちも強かったです。
結果的には、小説を読んだ後に、格別新たな発見はなく、
「ああ、こういう原作が、ああいうドラマだったんだなあ」
というだけのものでした。
その次に 「優駿」…
これも映画がきっかけで読んだのですが、
映像が、それはそれでうまく出来ていたので、
エンタテイメントとして満足してしまい。
小説も素晴らしいのですが、印象としては
「映画の優駿」として記憶に残りました。
そもそもの代表作の「泥の河」も、
映画にいたく感動したせいか、遡っての原作は未読です。
「道頓堀川」はそれなりの映画でしたが…
あえての深く探ろうとも思わず、
原作者は知っていましたが、
改めて読み直すことは、しなかったです。
そういう意味では、まだこのあたりは宮本輝の作品が好きだ…
という思いはまったくなかったです。
「ここに地終わり 海始まる」 講談社
を読んで、ああ…いつかポルトガルに行きたいなあ…
などと感じたのが、30歳過ぎ…
物語のはじまりともなっている、
ヨーロッパの西の端の「ロカ岬」に立ち、
小説のタイトルと同じ、ルイスデ・カモン・イスの
叙事詩の一節が記された、石碑を見て、
ああ、あの本のイメージはここがスタートなんだなあ…
と実感もしたのですが、
まだ、宮本輝さんを追いかけてみようは思ってはいません。
彼の作品は「生きるヒント」に満ちているとよく言われます。
人生の再出発をテーマにしているものが多いせいでしょうが、
そもそも僕自身の20歳~30歳は、
「生きるヒント」を欲していませんでしたから、
ここまで読んでも、心にシンクロしていなかったように感じます。
もう少しいえば、「その説教はうるさい」という感じですか…。
「草原の椅子」が1999年、朝日新聞で連載が始まりました。
購読していたせいもあり、たまに連載を読んでもいたのですが、
その頃の自分には、まったく響かず、書籍化されてから、
読み直そうという気持ちも皆無でした。
40歳を過ぎ離婚と退職を経験した後、
少し放浪しようと思い立ち、ひとりアジアに出かけました。
旅の中盤、インドを巡る最中です。
ムンバイかコルカタか…はっきり覚えていませんが、
安宿をねぐらと決めて、何日かあたりをさまよっていたら、
街角に「古本屋」を見つけました。
この手の本屋さんは 旅人が捨てた本、
もしくはいくばくかの代金で置いていく、さまざまな本で
成り立つ商売です。 そのほとんどはいわゆる
「ペーパーブック」の類。
バックパッカーが暇つぶしに、故郷もしくは旅先で買った、
安手の紙でできた軽い(重量がという意味です)
小説を、読み終わり…荷物になると、捨てる代わりにおいてゆく、
そういう本で溢れています。
日本の本は、ほとんどありません。
これは、そもそも日本人が 小説を携えて世界を回ることを
しない文化というわけではなく、
買った小説がそれなりの値段で、
装丁もちゃんとしていて、…お気軽に捨てて行く…
そういう本ではないからなのでしょう。
案の定、その古本屋も英語やドイツ語で書かれた
ペーパーブックで溢れていました。
それでも、「ジャパニーズ?」と店主に聞くと、
暗い店内の 奥の一角を指差します。
本棚の片隅に30冊程度、
日本語で書かれた本が置かれた…
はさまっていました。
異国の街角の本屋に置いていかれた日本の小説…
誰がいつ、なぜこの本を買い、どうしてここにあるのか…
このままこの本たちは、ここで朽ち果ててゆくのだろう
という妙な感傷…そう思うと、
なんか可笑しくもあり、また、僕がちゃんと選んで、
この本の宿命(読まれるために存在するという)を
受け入れようというへんな使命感も感じるから不思議です。
30冊の本は…そのジャンルもバラバラで…
詳しくは覚えていませんが、司馬遼太郎や松本清張や太宰治なんて
感じであったように記憶しています。
旅が暇なタイミングであったことや、
日本が恋しいタイミングであったこと、
そのせいで何冊か買い求めました。
その1冊が「草原の椅子」の“上巻”でした。
上でなければ 買わなかったと思います。
当たり前ですが、中には、「地の指」
松本清張 角川文庫 下巻 などがあり、
こちらの小説は、ぜひ読みたい本であったのですが、
下巻ではなあ~と、これがカドカワノベルス初版であればなあ…
とまことに残念でした。
上下本の場合、下巻をおいて置かれても…
ああこの本の運命はここまであったか…です。
まあ、そんな出会いで 「草原の椅子」を読んだのですが、
これが、素晴らしく心に届いてくる。
異国にひとりという環境を差し引いても、
びんびん来るのです。
たった、7,8年しか違わないのに、
30歳半ばでは、まったく共感できなかった
この小説の「生きるヒント」は、
すんなりと気持ちよく心に落ちてきました。
50歳を前にした、ひとりのサラリーマンがその歳になり、
ひとりの親友を得て、さまざまな人物に出会い、
あるべき姿を体感してゆくという話しです。
出会いそのものも、5歳の虐待を受けた少年がいたり、
妻と別れて新たな道を進もうとする中年親父がいたり、
心が弱く自分を律せない少女がいたり、
ひとりで陶器店を経営する妙齢の女性がいたり、…とさまざまで、
それがふたりの日常に関わり、
起る出来事にそって描かれています。
宮本輝はこの小説を書き始める 直前…
「阪神淡路大震災」を、そのど真ん中で体験し、
「人間の幸福にとってさして重要でないものを、極端にいえば、
かえって不必要なものを多く背負い込み、
購買し消費してきた~それがただの数十秒で、膨大なゴミと化した…
ただ呆気にとられている~人間の幸福とはなんなんだろう?」
と感じたらしい。
そしていつまでも呆気にとらわれていても仕方ない中で、
言葉を紡ぎ、吐き出した…
それがこの小説らしいのです。
だから、物語の随所に、当時の日本を覆いつくす空気…
価値観や風潮…その中にある「心根の貧しさ」を
主人公の言葉を借りて、読者に訴えている…
その訴えが30歳半ばの“僕”には、「うるさい」と 感じ、
40歳を過ぎた“僕”は、気持ちがよいと感じだようです。
それは、僕がそうであったというだけで、
壮年期の男性がどう感じるかはわかりません。
昔の同級生と新橋の街角で、たまたま出会い、
そのままなんとなく、立ち飲み屋で呑んで、今の近況など
本音で話しているうちに「じゃあ もう一軒行くか」
と盛り上がる…
まあ、僕なりのイメージで宣伝するなら…そんな本です。
毎日新聞社・幻玄社文庫・新潮文庫
この本は四十歳過ぎた壮年の男性には
ぜひお読みいただきたい小説です。
宮本輝さんの小説との初めての出会いは
「青が散る」
テレビドラマ化されたこともあり、興味を持ち、
読んだのがきっかけでした。
郊外に新設された、3流大学での青春群像劇。
ドラマでは、まだ、若かりし佐藤浩一や石黒賢、
遠藤憲一、川上麻衣子などが…校舎の裏手の空き地を
整備して、テニス部を作ってゆくという話しで、
毎回、欠かさず見ていていました。
当時、僕自身も大学に入学したてだったこと、と、
テニスは中学から続けていたので、
そんな親近感もあったのでしょうが、
ともに、ドラマ初出演である、石黒賢と二谷友里恵の主人公二人が、
その演技のあまりのひどさにも関わらず、
妙に芯に残る演出が印象的であり、
そこにひきつけられたように思います。
また、ドラマの終わりが、期待している終わり方ではなく、
そこに物足りなさを覚え、これは小説を読めば、答えが分かるかも…
という気持ちも強かったです。
結果的には、小説を読んだ後に、格別新たな発見はなく、
「ああ、こういう原作が、ああいうドラマだったんだなあ」
というだけのものでした。
その次に 「優駿」…
これも映画がきっかけで読んだのですが、
映像が、それはそれでうまく出来ていたので、
エンタテイメントとして満足してしまい。
小説も素晴らしいのですが、印象としては
「映画の優駿」として記憶に残りました。
そもそもの代表作の「泥の河」も、
映画にいたく感動したせいか、遡っての原作は未読です。
「道頓堀川」はそれなりの映画でしたが…
あえての深く探ろうとも思わず、
原作者は知っていましたが、
改めて読み直すことは、しなかったです。
そういう意味では、まだこのあたりは宮本輝の作品が好きだ…
という思いはまったくなかったです。
「ここに地終わり 海始まる」 講談社
を読んで、ああ…いつかポルトガルに行きたいなあ…
などと感じたのが、30歳過ぎ…
物語のはじまりともなっている、
ヨーロッパの西の端の「ロカ岬」に立ち、
小説のタイトルと同じ、ルイスデ・カモン・イスの
叙事詩の一節が記された、石碑を見て、
ああ、あの本のイメージはここがスタートなんだなあ…
と実感もしたのですが、
まだ、宮本輝さんを追いかけてみようは思ってはいません。
彼の作品は「生きるヒント」に満ちているとよく言われます。
人生の再出発をテーマにしているものが多いせいでしょうが、
そもそも僕自身の20歳~30歳は、
「生きるヒント」を欲していませんでしたから、
ここまで読んでも、心にシンクロしていなかったように感じます。
もう少しいえば、「その説教はうるさい」という感じですか…。
「草原の椅子」が1999年、朝日新聞で連載が始まりました。
購読していたせいもあり、たまに連載を読んでもいたのですが、
その頃の自分には、まったく響かず、書籍化されてから、
読み直そうという気持ちも皆無でした。
40歳を過ぎ離婚と退職を経験した後、
少し放浪しようと思い立ち、ひとりアジアに出かけました。
旅の中盤、インドを巡る最中です。
ムンバイかコルカタか…はっきり覚えていませんが、
安宿をねぐらと決めて、何日かあたりをさまよっていたら、
街角に「古本屋」を見つけました。
この手の本屋さんは 旅人が捨てた本、
もしくはいくばくかの代金で置いていく、さまざまな本で
成り立つ商売です。 そのほとんどはいわゆる
「ペーパーブック」の類。
バックパッカーが暇つぶしに、故郷もしくは旅先で買った、
安手の紙でできた軽い(重量がという意味です)
小説を、読み終わり…荷物になると、捨てる代わりにおいてゆく、
そういう本で溢れています。
日本の本は、ほとんどありません。
これは、そもそも日本人が 小説を携えて世界を回ることを
しない文化というわけではなく、
買った小説がそれなりの値段で、
装丁もちゃんとしていて、…お気軽に捨てて行く…
そういう本ではないからなのでしょう。
案の定、その古本屋も英語やドイツ語で書かれた
ペーパーブックで溢れていました。
それでも、「ジャパニーズ?」と店主に聞くと、
暗い店内の 奥の一角を指差します。
本棚の片隅に30冊程度、
日本語で書かれた本が置かれた…
はさまっていました。
異国の街角の本屋に置いていかれた日本の小説…
誰がいつ、なぜこの本を買い、どうしてここにあるのか…
このままこの本たちは、ここで朽ち果ててゆくのだろう
という妙な感傷…そう思うと、
なんか可笑しくもあり、また、僕がちゃんと選んで、
この本の宿命(読まれるために存在するという)を
受け入れようというへんな使命感も感じるから不思議です。
30冊の本は…そのジャンルもバラバラで…
詳しくは覚えていませんが、司馬遼太郎や松本清張や太宰治なんて
感じであったように記憶しています。
旅が暇なタイミングであったことや、
日本が恋しいタイミングであったこと、
そのせいで何冊か買い求めました。
その1冊が「草原の椅子」の“上巻”でした。
上でなければ 買わなかったと思います。
当たり前ですが、中には、「地の指」
松本清張 角川文庫 下巻 などがあり、
こちらの小説は、ぜひ読みたい本であったのですが、
下巻ではなあ~と、これがカドカワノベルス初版であればなあ…
とまことに残念でした。
上下本の場合、下巻をおいて置かれても…
ああこの本の運命はここまであったか…です。
まあ、そんな出会いで 「草原の椅子」を読んだのですが、
これが、素晴らしく心に届いてくる。
異国にひとりという環境を差し引いても、
びんびん来るのです。
たった、7,8年しか違わないのに、
30歳半ばでは、まったく共感できなかった
この小説の「生きるヒント」は、
すんなりと気持ちよく心に落ちてきました。
50歳を前にした、ひとりのサラリーマンがその歳になり、
ひとりの親友を得て、さまざまな人物に出会い、
あるべき姿を体感してゆくという話しです。
出会いそのものも、5歳の虐待を受けた少年がいたり、
妻と別れて新たな道を進もうとする中年親父がいたり、
心が弱く自分を律せない少女がいたり、
ひとりで陶器店を経営する妙齢の女性がいたり、…とさまざまで、
それがふたりの日常に関わり、
起る出来事にそって描かれています。
宮本輝はこの小説を書き始める 直前…
「阪神淡路大震災」を、そのど真ん中で体験し、
「人間の幸福にとってさして重要でないものを、極端にいえば、
かえって不必要なものを多く背負い込み、
購買し消費してきた~それがただの数十秒で、膨大なゴミと化した…
ただ呆気にとられている~人間の幸福とはなんなんだろう?」
と感じたらしい。
そしていつまでも呆気にとらわれていても仕方ない中で、
言葉を紡ぎ、吐き出した…
それがこの小説らしいのです。
だから、物語の随所に、当時の日本を覆いつくす空気…
価値観や風潮…その中にある「心根の貧しさ」を
主人公の言葉を借りて、読者に訴えている…
その訴えが30歳半ばの“僕”には、「うるさい」と 感じ、
40歳を過ぎた“僕”は、気持ちがよいと感じだようです。
それは、僕がそうであったというだけで、
壮年期の男性がどう感じるかはわかりません。
昔の同級生と新橋の街角で、たまたま出会い、
そのままなんとなく、立ち飲み屋で呑んで、今の近況など
本音で話しているうちに「じゃあ もう一軒行くか」
と盛り上がる…
まあ、僕なりのイメージで宣伝するなら…そんな本です。
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