紋谷のソコヂカラ
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知らずに死ねるか VOL.4
投稿日時:2008/08/31(日) 21:09~グミ チョコレート パイン ~
ここまで走って来ちゃったんだけど…
いいのかな?こんなんで…いいんだよね…って
振り返ってしまう。
どうしても惑ってしまうから…惑わずの40代、
迷っちゃ駄目だの40歳。
就活まっただ中“もう”22歳っすよ。
歳とったって感じなんですよねぇ…なんか。
入社して3年。営業向いてないと思うんですけどぉ~ワタシぃ…。
「いやいや…まだまだ…なんのなんの…
ふっ…あほくさ…わかるよわかる…でもな」
30歳ではまだ早い。
40年経ったから…経っちゃったけど、
まだ若いから、まだ若いと思うから、
今の内に振り返りたくなる。
50歳になれば、またそれなりに振り返って
しまうんだろうけど…
この“まだ若い”ってとこに、
微妙な違いがあるような気が。
振り返るついでに、なんか言いたくなる…
「オレの青かった時代」「ワタシが真っ白だった時代」
ちょっと巡らすだけで、
「あの頃テーマ」の映画や小説はザクザクと浮かびます。
でも、この手のテーマを扱った作品は、難しい。
なぜなら表現する側のノスタルジィ、わが青春のカタルシスだから、
どこまで言っても「自己満足」になってしまう。
そうなると、若い輩には理解されないし、
こだわりの同世代からは「オレの過ごした時間とは違う」と言われる。
だから商業的テーマは、不変なものになりやすい。
恋愛や音楽や親との確執や友情やスポーツ…
盗んだバイクは走り出し、ひと夏の花火は彼女の浴衣…
病気にならなきゃ事故に遭い、バンドは組むわバイトはするわ、
バトンはつなぐわ…
そんな中から、知らずにいたら損だよ、
と言えるものを紹介するのは難しいのですが…
少し前に、狭くテーマを募集したところ、
「夏の終わりにふさわしく、40歳過ぎた自分に
ちょっとしたビタミン剤になる邦画や小説はありませんか」
というお題を頂いてしまったのです。
まずは大林作品(笑)からだろと思いましたが…もう観たと言われ、
「初期の3部作なら“さびしんぼう”それ以外なら
“異人たちとの夏”と“北京的西瓜”が好き」とまで…
おっ!…こいつ素人じゃねえな(笑)…となり…
じゃあまあ、わかりましたと紹介することにしました。
だから、この長い前置きは、言い訳です。
◆◆◆ ◆◆◆
◆「ワンダフルライフ」
監督:是枝裕和1999公開
●これは40歳代から青春を振り返った映画ではありません。
でも、過去の自分を探すという意味では、これほどの傑作は見当たりません。是枝さんお得意のドキュメントの手法を取り入れた作品ですが、完全なるフィクションです。
死んでから死後の世界へと旅立つまでの1週間…“ある場所”に集められた老若男女。そこで彼らは、「自分の人生で一番大切な思い出を、1つだけ選んでください。」と言われます。
“ある場所”にはスタッフがいて、彼らの役目は、その“たったひとつの思い出”を…思い出す手助けなのです。期限は1週間…さまざまな人が、それぞれの人生を振り返る…個性豊かな面々が語るリアルなお話し…そして思い出が決まり、スタッフの手により行われるセレモニー。
死が訪れた時、走馬灯のように…とは言いますが、
ひとつ一番の思い出と言われれば、誰しもが困る。
「多すぎて困る」そんな人生を送れれば幸せなのでしょう。
こう書くと、暗いのでは…と思われるかもしれませんが、
決して暗く、地味な映画ではありません。蛇足ながら。
◆「グミチョコレートパイン」
原作:大槻ケンジ 脚本・監督: ケラリーノ・サンドロビッチ>
●物語は2007年。40歳になってリストラされた主人公(大森南朋)が実家に帰ってきます。そこに、高校時代、好きだった同級生から届いていた手紙…1枚の便箋に書かれた、「あなたのせいなのだから」のひと言。
彼女がすでに亡くなっていたことを知った主人公は、その言葉の意味を考えます。映画は、2007年の今と、21年前 の高校時代とをラップする形で進行します。高校時代の主人公は、売り出し中の石田卓也、彼女役は 黒川芽以 です。
この映画、「どうしても観て」というには少し散漫です。
要素を詰め込みすぎたせいなのでしょう、
削る場面は多い(特に、“今”…再会した悪友たちとのエピソードはいらないかと)と感じました。
でも、僕にとって…この辺が自己満足…自分を振り返るには、充分な“あの頃”が描かれていました。
最後、手紙に書かれていたひと言の意味が分かるのですが…
そのミステリィーな落ちも気に入りました。
◆「田村はまだか」
光文社:朝倉かすみ著
●深夜のバー。小学校のクラス会の3次会。40歳になる男女5人が友を待つ。友の名前は「田村」。…もう3次会ですから、この5人、けっこう出来上がっている。
2次会で別れた、ほかの同級生よりは、「近い存在」。それぞれに今はあって、それぞれに思いはある。高校時代よりも前、小学生のあの頃までさかのぼり、各々が思い出す。
シチュエーションが絶品で、この、ただ飲んでいるのではなく「田村を待っている」というところがミソでして、そこに読む側との一体感が生まれてしまう不思議な魅力があります。
ちなみに映画になるなら、僕はマスター役で。
ああ、なんかノってきちゃいました(笑)…まだまだありますが…我慢します。
ちなみに 件のリクエストは海の向こう、カリフォルニアからです。
ほとんど行ったっきりの20年。離婚して結婚して2児の母。
友人も数多くできたけど、やっぱり日本が懐かしい…あの頃の自分を思い出すとのこと。
ずっと日本にいるよりも、鮮明な記憶なのでしょうね。
ここまで走って来ちゃったんだけど…
いいのかな?こんなんで…いいんだよね…って
振り返ってしまう。
どうしても惑ってしまうから…惑わずの40代、
迷っちゃ駄目だの40歳。
就活まっただ中“もう”22歳っすよ。
歳とったって感じなんですよねぇ…なんか。
入社して3年。営業向いてないと思うんですけどぉ~ワタシぃ…。
「いやいや…まだまだ…なんのなんの…
ふっ…あほくさ…わかるよわかる…でもな」
30歳ではまだ早い。
40年経ったから…経っちゃったけど、
まだ若いから、まだ若いと思うから、
今の内に振り返りたくなる。
50歳になれば、またそれなりに振り返って
しまうんだろうけど…
この“まだ若い”ってとこに、
微妙な違いがあるような気が。
振り返るついでに、なんか言いたくなる…
「オレの青かった時代」「ワタシが真っ白だった時代」
ちょっと巡らすだけで、
「あの頃テーマ」の映画や小説はザクザクと浮かびます。
でも、この手のテーマを扱った作品は、難しい。
なぜなら表現する側のノスタルジィ、わが青春のカタルシスだから、
どこまで言っても「自己満足」になってしまう。
そうなると、若い輩には理解されないし、
こだわりの同世代からは「オレの過ごした時間とは違う」と言われる。
だから商業的テーマは、不変なものになりやすい。
恋愛や音楽や親との確執や友情やスポーツ…
盗んだバイクは走り出し、ひと夏の花火は彼女の浴衣…
病気にならなきゃ事故に遭い、バンドは組むわバイトはするわ、
バトンはつなぐわ…
そんな中から、知らずにいたら損だよ、
と言えるものを紹介するのは難しいのですが…
少し前に、狭くテーマを募集したところ、
「夏の終わりにふさわしく、40歳過ぎた自分に
ちょっとしたビタミン剤になる邦画や小説はありませんか」
というお題を頂いてしまったのです。
まずは大林作品(笑)からだろと思いましたが…もう観たと言われ、
「初期の3部作なら“さびしんぼう”それ以外なら
“異人たちとの夏”と“北京的西瓜”が好き」とまで…
おっ!…こいつ素人じゃねえな(笑)…となり…
じゃあまあ、わかりましたと紹介することにしました。
だから、この長い前置きは、言い訳です。
◆◆◆ ◆◆◆
◆「ワンダフルライフ」
監督:是枝裕和1999公開
●これは40歳代から青春を振り返った映画ではありません。
でも、過去の自分を探すという意味では、これほどの傑作は見当たりません。是枝さんお得意のドキュメントの手法を取り入れた作品ですが、完全なるフィクションです。
死んでから死後の世界へと旅立つまでの1週間…“ある場所”に集められた老若男女。そこで彼らは、「自分の人生で一番大切な思い出を、1つだけ選んでください。」と言われます。
“ある場所”にはスタッフがいて、彼らの役目は、その“たったひとつの思い出”を…思い出す手助けなのです。期限は1週間…さまざまな人が、それぞれの人生を振り返る…個性豊かな面々が語るリアルなお話し…そして思い出が決まり、スタッフの手により行われるセレモニー。
死が訪れた時、走馬灯のように…とは言いますが、
ひとつ一番の思い出と言われれば、誰しもが困る。
「多すぎて困る」そんな人生を送れれば幸せなのでしょう。
こう書くと、暗いのでは…と思われるかもしれませんが、
決して暗く、地味な映画ではありません。蛇足ながら。
◆「グミチョコレートパイン」
原作:大槻ケンジ 脚本・監督: ケラリーノ・サンドロビッチ>
●物語は2007年。40歳になってリストラされた主人公(大森南朋)が実家に帰ってきます。そこに、高校時代、好きだった同級生から届いていた手紙…1枚の便箋に書かれた、「あなたのせいなのだから」のひと言。
彼女がすでに亡くなっていたことを知った主人公は、その言葉の意味を考えます。映画は、2007年の今と、21年前 の高校時代とをラップする形で進行します。高校時代の主人公は、売り出し中の石田卓也、彼女役は 黒川芽以 です。
この映画、「どうしても観て」というには少し散漫です。
要素を詰め込みすぎたせいなのでしょう、
削る場面は多い(特に、“今”…再会した悪友たちとのエピソードはいらないかと)と感じました。
でも、僕にとって…この辺が自己満足…自分を振り返るには、充分な“あの頃”が描かれていました。
最後、手紙に書かれていたひと言の意味が分かるのですが…
そのミステリィーな落ちも気に入りました。
◆「田村はまだか」
光文社:朝倉かすみ著
●深夜のバー。小学校のクラス会の3次会。40歳になる男女5人が友を待つ。友の名前は「田村」。…もう3次会ですから、この5人、けっこう出来上がっている。
2次会で別れた、ほかの同級生よりは、「近い存在」。それぞれに今はあって、それぞれに思いはある。高校時代よりも前、小学生のあの頃までさかのぼり、各々が思い出す。
シチュエーションが絶品で、この、ただ飲んでいるのではなく「田村を待っている」というところがミソでして、そこに読む側との一体感が生まれてしまう不思議な魅力があります。
ちなみに映画になるなら、僕はマスター役で。
ああ、なんかノってきちゃいました(笑)…まだまだありますが…我慢します。
ちなみに 件のリクエストは海の向こう、カリフォルニアからです。
ほとんど行ったっきりの20年。離婚して結婚して2児の母。
友人も数多くできたけど、やっぱり日本が懐かしい…あの頃の自分を思い出すとのこと。
ずっと日本にいるよりも、鮮明な記憶なのでしょうね。
現実と現実の間にある1本の坂道
投稿日時:2008/08/26(火) 04:16がんセンターからバス通りを一本挟んで、
真向かいには、神奈川県民はみんなご存知、「運転免許試験場」があります。おかげでこの二俣川駅から歩いて20分の坂道は、1日中、人の波が絶えません。
道の先は住宅街ですから、この道を登って来る人達の目的は、“自動車免許”か“癌センター”そのいずれかです。
天気のよい日など、通りに面した石垣に腰を下ろし、行き交う人達を眺めたりしています。
試験場側の歩道は、カラフルで元気…若くてノー天気な一団が闊歩しています。
対して病院側は、じいさん婆さんが中心。
人生の終わりを、もしくは終わり方を、
どこか意識した方々とそのご家族達です。
かたや高校を卒業し、
社会人としての初舞台に上がろうという精気に満ち、
かたや…人生の大半を終え、
幸せってなんだったんだろうなどと振り返っている人達。
この対比は、分かりやすく現実的です。
意識して見なくとも、伝わってくるオーラの違いは明らかです。
1本の通りを挟んで右と左、それしか違わないのに…
たぶんこんな光景は、他では見ることが出来ないと思います。
たまに試験場の敷地に入ったりします。
今日(0821)もなんとなく…
入り口の脇のベンチに腰を掛けこのブログを書いています。
「???ええっ!!!なんだよぉ~そっちのポケットにあったぁ!?
なんだよお~。おいおい!まいっちまぅなぁ~。
昨日、あれだけ探したんだぜぇ~いま免許証再交付してもらっちまったよお。
そうだよぉ~…なんだよぉ…そうかぁ~俺のポケット2つあるからなぁ~
そっちかぁ~まじかぁ!?
~以下省略」
◆20代後半ぐらい男性。スーツ姿…営業?
●すごい悔しがっている感じが伝わってきました。
人生、損したぁって瞬間ですよね。
分かります。
いけないのは、あなたじゃないです。
ポケットです。2つあるほうがいけないっすよね。
「まじウケルんだけどぉ~献血したらさぁ~
あのさぁA型だったんだよぉ~そうまじ!
ウチさぁ36年間O型だと思ってたのにさぁ~
まじビビったぁ~A型かよぉ…って感じ。
36年間生きてきてさぁ~ずっとO型だとさぁ…
~以下省略」
◆年齢36歳 女性…若く見える?
●…思わず顔見ちゃいました。
ごめんなさい。免許更新に来て、献血してよかったですね。
…初めて献血したんですね。…ずうっと独身なんですね。
…次からの合コンでは、ワタシぃA型だからぁ几帳面って言われるかもぉ…
これでゲットです。
ベンチに座って、ものの10分くらい…
作り話しじゃないですよ。本当に目の前での話し。
笑わせてくれます自動車免許試験場。
病室にしばらくすると…主治医にナースセンターに呼ばれた。
採血データを手にした先生が…
「もんやさん。1回目と同様に、2回目の投薬でも、
数値が著しく改善してはいないですね。
もっと効いていれば…こうね…ポオンって下がるんだけどね…
うーんなんとも言えないけどね。
やはり完治は難しいと言わざる負えない。
前の大学病院の僕の患者さんで、
8回ね、このNI治療を繰り返している人がいるんだけど、
腫瘍マーカーが上がったら薬入れて…
また、数値が鎮静化したら止めて…その繰り返し。
でもね、8回も入れるとね…骨髄に障害が出る。
…そうなると…治療は続けられない。
悪くすれば白血病を発症することにもなる。
…そのせいで、その方も治療をストップしている。
そして治療をストップするということは…。
選択肢としては、このタイミングで、
完治の治療は断念して、緩和ケアーに切り替えるということもあります。
そして最後が、少しでも病気の進行を遅らせるという選択。
ここにおいては、最善のパターンは不明ですが…」
◆50代半ば位 職業:医師 風貌…小説家風
●結局、結論はなんなのか?
無理やり薬を入れ続けるのか。死を受け入れ、残りの人生を謳歌するのか?
…はたまた、ポオンとは落ちないけど、今の薬は、癌に対して、
歯止めにはなっている。
病気と付き合う方向で、治療を続けましょうなのか…?
患者は困っています。でも、決めるのは自分。
あくまでも選択肢を提示して頂いたのですね。
すんなり完治しないでごめんなさい。
いい難い話をしていただきありがとうございます。
僕の今の答えは決まっています。
その答えが正しいのかは分かりませんがね。
最近、入院される方が増えた気がします。
病室に戻ると、今日もまたひとり同室に。
「もう20回目だよ。○○先生ん時からだよぅ。
そうだよ。おうっ。えっ?食事?…飯か?…いらねえよ。
おらぁよぉ…ちゃんと焦げ目がついてなくちゃ魚喰わねえんだよ。
サンマもよ、シャケもよ…生っちろいんだよここのはよ。
あれじゃ食えねぇ。だいたい飯が美味くなくちゃ元気になれないだろ。
ダメだよぉ~ありゃあ。」
◆年齢70歳オーバーな感じ男性職業不明
●かなり声がでかいことを除けば、至極ごもっとも。
生焼けではなく、大量に業務用オーブンで焼いているのでしょうが…
やっぱり焼き魚は焦げ目っすよね親分。
しかし“おつとめ”20回っすか…おみそれしやした。
投薬が8回だなんだかんだで、ぐだぐだと…自分…恥ずかしいっす。
こちらも、病室に戻り、ものの10分くらいの話し。
笑える出来事はなかなか起こりませんが、
通りの反対側…こっちもこっちで色々あります。
知らずに死ねるか VOL.3
投稿日時:2008/08/19(火) 09:59~ ナナちゃん ~
海の近くの小さな町に、バーがあった。
小さな町といってもそこそこの住人はいたし、
きれいな浜辺目当てのお客さんが、1年を通じてやってきた。
しかしバーは暇だった。
夏になって、浜辺が人で溢れかえった夜も…バーの入り口の扉が、
開くことはほとんどなかった。
バーのマスターは、どうしたもんだろう…と考えた。
幸い、考える時間はいくらでもあった。
毎日、朝から晩まで、寝る間も惜しんで考えた。
…そしてひらめいた。
翌日から、裏庭の小屋にこもって…朝から晩まで、
トンテンカンテン何かを作り始めた。
毎日、毎日、トンテンカンテン、幸い、時間はいくらでもあった。
夏が終ろうとするある日、マスターは小屋から出てきて言った。
「できたぞ!」それは、女性のロボットだった。
マスターは手先がとても器用だったから、ロボットは驚くほど精巧に作られていた。
ロボットは実際よくできていた。
人工的なものだから、いくらでも美人にはできたのだが、あえて手を加えた。
完璧な美人などというものはつまらないからだ。
理想と思われる鼻は、少し低く、目はぱっちりなんだけど、
少したれ目に…という具合だ。
しかし頭は空っぽだった。
マスターもそこまでは手が回らない。
簡単な受け答えができるだけだし、動作の方もお酒が飲めるだけだった。
ロボットはカウンターに置かれた。ボロを出しては困るからだ。
何日かして、はじめてお客さんが彼女の隣に座った。
「名前は」
「ナナちゃん」
「歳は」
「まだ若いのよ」
「いくつなんだい」
「まだ若いのよ」
「だからさ…」
「まだ若いのよ」
「いい声だね」
「いい声でしょ」
「また聞きたくなる声だ」
「また聞きに来てね」
マスターはカウンターの中でほくそ笑んだ…声は特に苦労したんだ。
高い声はダメ、少し低く、どこか寂しげで、耳をくすぐる感じに。
「可愛いね」
「可愛いでしょ」
「よく言われるんだろ」
「よく言われるわ」
「ワイン飲むかい」
「ワイン飲むわ」
「ボトルで頼むかい」
「ボトルで頼むわ」
お酒はいくらでも飲んだ。
ナナちゃんが口にしたお酒は、ナナちゃんのお尻から出た管を通って、
カウンターの中の樽に溜まる仕組みになっていた。
「お客の中で誰が好きなんだい」
「誰が好きかしら」
「僕が好きかい」
「あなたが好きだわ」
ナナちゃんの噂は、あっという間に広がった。
美人は美人なんだけど、つんとしていなくて、
余計なお世辞はいわない。
素直で優しくて、何より飲んでも乱れない。
町の男性はもちろん、浜辺に来ていた観光客もナナちゃん目当てにバーにやって来た。
…その中にひとりの青年がいた。
「ナナって呼んでいいかい」
「ナナって呼んでいいわ」
「ほんとはイヤなんだろ」
「ええイヤよ」
「僕と付き合ってくれないか」
「あなたと付き合うわ」
「…ほ…ほんとかい」
「ほんとよ」
「からかってるんだろ」
「からかってるわ」
青年は、毎晩通ってきた。
カウンターに他のお客がいる時は、
ナナちゃんの隣が空くまでずうっと待っていた。
秋が終り冬になった。それでも、青年は毎晩やって来た。
「ナナちゃん。クリスマスはデートしようね」
「デートするわ」
「約束だよ」
「約束よ」
クリスマスの日、もちろんナナちゃんは行けなかった。
マスターは、青年の誘いをカウンター越しに聞いていた。
マスターはつぶやいた…仕方ないさ。
その夜、青年はやって来た。
「…ずっと待ってたんだ」
「ずっと待ってたの」
「初めから来る気なんてなかったんだろ」
「ええなかったわ」
「もうここには来ないから」
「もう来ないのね」
「悲しいかい」
「悲しいわ」
「うそつき」
「うそつきよ」
「ナナほど冷たいオンナはいないね」
「私ほど冷たいオンナはいないわ」
青年は大きくため息をついた。
「殺してやろうか」
「殺してちょうだい」
青年はポケットから薬の入った小瓶を取り出し、
ナナちゃんのグラスの中に垂らした。
「飲めよ」
「飲むわ」
…青年の目の前でナナちゃんはグラスの酒を飲み干した。
「勝手に死ぬがいいさ」
青年はコートの襟を立て帰っていった。
テーブルで他のお客さんの相手をしていたマスターは、
青年の出て行った扉に向かって言った。
「やれやれ、やっと帰ったか。
だいぶん思いつめていたようだけど、何事もなくよかった」
今夜もバーは満員だった。ラジオからはクリスマスソングが流れていた。
「みなさん!メリークリスマス!今宵は私がおごります。心ゆくまで楽しんでください」
「わ~い」
お客さんたちから歓声があがった。
マスターはカウンターの下からお酒の入った樽を持ち上げながらつぶやいた。
「なぁに…おごるといってもね…これだけどね」
その夜、バーは遅くまで灯りがついていた。
誰ひとり帰りもしないのに、話し声もなく静かだった。
そのうちラジオも「おやすみなさい」と言って静かになった。
「おやすみなさい」 ナナちゃんはそう応えて、次は誰が話しかけてくれるのかしら…と待っていた。
◆◆◆ 「ほしのはじまり~決定版星新一ショートショート~」 編:新井素子/角川書店 ◆◆◆
音楽でも絵画でも、映像でも写真でも、世に出て何十年も経つのに、その魅力がまったく色あせない
というのは…やはり天才の仕業だからでしょう。
僕は小学校6年生の夏休みに、「お-い でてこーい」を読んで読書感想文を書いた。
それは、推奨された課題図書が、長ったらしく退屈な本であったことへの皮肉だったと記憶している。
なぜそんなことを覚えているかと言うと、その僕の感想文は県で「なんやら賞」をもらったからで、その表彰式の壇上で「なぜ星新一を…」 と聞かれ 正直に応えたら…あとで付き添いで来た母親に思いっきり叱られた。感想文の内容はまったく忘れたが、この思いっきり叱られた記憶だけは、今でも覚えている。損な記憶である。
長い小説というのは、時にはやっかいで、初めからつまらなけば、止めてしまえるのだが、面白くなりそうだ…なんて感じだったりすると、なんだかんだで読んでしまい…挙げ句にラストまでつまらないと…ひどく損をした気分になる。
その点、星新一のショートショートはよい。ひとつひとつが短いからではなく、ひとつひとつが面白いからだ。そんな作品の中でも選ばれた54作品が本著には収められている。
「星新一…あぁ昔読んだな」という人も、「ショートショートは筒井康隆だろ」なんて人も、ぜひ読んで欲しい。これからの夜長にぴったりです。
日差しの強さは変わりませんが、今日から風が変わりましたね。…秋の気配。
バーでひとり、アエラモルトのロックなんて飲みながらなんてのもありです…隣に座った美女には目もくれずに。
海の近くの小さな町に、バーがあった。
小さな町といってもそこそこの住人はいたし、
きれいな浜辺目当てのお客さんが、1年を通じてやってきた。
しかしバーは暇だった。
夏になって、浜辺が人で溢れかえった夜も…バーの入り口の扉が、
開くことはほとんどなかった。
バーのマスターは、どうしたもんだろう…と考えた。
幸い、考える時間はいくらでもあった。
毎日、朝から晩まで、寝る間も惜しんで考えた。
…そしてひらめいた。
翌日から、裏庭の小屋にこもって…朝から晩まで、
トンテンカンテン何かを作り始めた。
毎日、毎日、トンテンカンテン、幸い、時間はいくらでもあった。
夏が終ろうとするある日、マスターは小屋から出てきて言った。
「できたぞ!」それは、女性のロボットだった。
マスターは手先がとても器用だったから、ロボットは驚くほど精巧に作られていた。
ロボットは実際よくできていた。
人工的なものだから、いくらでも美人にはできたのだが、あえて手を加えた。
完璧な美人などというものはつまらないからだ。
理想と思われる鼻は、少し低く、目はぱっちりなんだけど、
少したれ目に…という具合だ。
しかし頭は空っぽだった。
マスターもそこまでは手が回らない。
簡単な受け答えができるだけだし、動作の方もお酒が飲めるだけだった。
ロボットはカウンターに置かれた。ボロを出しては困るからだ。
何日かして、はじめてお客さんが彼女の隣に座った。
「名前は」
「ナナちゃん」
「歳は」
「まだ若いのよ」
「いくつなんだい」
「まだ若いのよ」
「だからさ…」
「まだ若いのよ」
「いい声だね」
「いい声でしょ」
「また聞きたくなる声だ」
「また聞きに来てね」
マスターはカウンターの中でほくそ笑んだ…声は特に苦労したんだ。
高い声はダメ、少し低く、どこか寂しげで、耳をくすぐる感じに。
「可愛いね」
「可愛いでしょ」
「よく言われるんだろ」
「よく言われるわ」
「ワイン飲むかい」
「ワイン飲むわ」
「ボトルで頼むかい」
「ボトルで頼むわ」
お酒はいくらでも飲んだ。
ナナちゃんが口にしたお酒は、ナナちゃんのお尻から出た管を通って、
カウンターの中の樽に溜まる仕組みになっていた。
「お客の中で誰が好きなんだい」
「誰が好きかしら」
「僕が好きかい」
「あなたが好きだわ」
ナナちゃんの噂は、あっという間に広がった。
美人は美人なんだけど、つんとしていなくて、
余計なお世辞はいわない。
素直で優しくて、何より飲んでも乱れない。
町の男性はもちろん、浜辺に来ていた観光客もナナちゃん目当てにバーにやって来た。
…その中にひとりの青年がいた。
「ナナって呼んでいいかい」
「ナナって呼んでいいわ」
「ほんとはイヤなんだろ」
「ええイヤよ」
「僕と付き合ってくれないか」
「あなたと付き合うわ」
「…ほ…ほんとかい」
「ほんとよ」
「からかってるんだろ」
「からかってるわ」
青年は、毎晩通ってきた。
カウンターに他のお客がいる時は、
ナナちゃんの隣が空くまでずうっと待っていた。
秋が終り冬になった。それでも、青年は毎晩やって来た。
「ナナちゃん。クリスマスはデートしようね」
「デートするわ」
「約束だよ」
「約束よ」
クリスマスの日、もちろんナナちゃんは行けなかった。
マスターは、青年の誘いをカウンター越しに聞いていた。
マスターはつぶやいた…仕方ないさ。
その夜、青年はやって来た。
「…ずっと待ってたんだ」
「ずっと待ってたの」
「初めから来る気なんてなかったんだろ」
「ええなかったわ」
「もうここには来ないから」
「もう来ないのね」
「悲しいかい」
「悲しいわ」
「うそつき」
「うそつきよ」
「ナナほど冷たいオンナはいないね」
「私ほど冷たいオンナはいないわ」
青年は大きくため息をついた。
「殺してやろうか」
「殺してちょうだい」
青年はポケットから薬の入った小瓶を取り出し、
ナナちゃんのグラスの中に垂らした。
「飲めよ」
「飲むわ」
…青年の目の前でナナちゃんはグラスの酒を飲み干した。
「勝手に死ぬがいいさ」
青年はコートの襟を立て帰っていった。
テーブルで他のお客さんの相手をしていたマスターは、
青年の出て行った扉に向かって言った。
「やれやれ、やっと帰ったか。
だいぶん思いつめていたようだけど、何事もなくよかった」
今夜もバーは満員だった。ラジオからはクリスマスソングが流れていた。
「みなさん!メリークリスマス!今宵は私がおごります。心ゆくまで楽しんでください」
「わ~い」
お客さんたちから歓声があがった。
マスターはカウンターの下からお酒の入った樽を持ち上げながらつぶやいた。
「なぁに…おごるといってもね…これだけどね」
その夜、バーは遅くまで灯りがついていた。
誰ひとり帰りもしないのに、話し声もなく静かだった。
そのうちラジオも「おやすみなさい」と言って静かになった。
「おやすみなさい」 ナナちゃんはそう応えて、次は誰が話しかけてくれるのかしら…と待っていた。
◆◆◆ 「ほしのはじまり~決定版星新一ショートショート~」 編:新井素子/角川書店 ◆◆◆
音楽でも絵画でも、映像でも写真でも、世に出て何十年も経つのに、その魅力がまったく色あせない
というのは…やはり天才の仕業だからでしょう。
僕は小学校6年生の夏休みに、「お-い でてこーい」を読んで読書感想文を書いた。
それは、推奨された課題図書が、長ったらしく退屈な本であったことへの皮肉だったと記憶している。
なぜそんなことを覚えているかと言うと、その僕の感想文は県で「なんやら賞」をもらったからで、その表彰式の壇上で「なぜ星新一を…」 と聞かれ 正直に応えたら…あとで付き添いで来た母親に思いっきり叱られた。感想文の内容はまったく忘れたが、この思いっきり叱られた記憶だけは、今でも覚えている。損な記憶である。
長い小説というのは、時にはやっかいで、初めからつまらなけば、止めてしまえるのだが、面白くなりそうだ…なんて感じだったりすると、なんだかんだで読んでしまい…挙げ句にラストまでつまらないと…ひどく損をした気分になる。
その点、星新一のショートショートはよい。ひとつひとつが短いからではなく、ひとつひとつが面白いからだ。そんな作品の中でも選ばれた54作品が本著には収められている。
「星新一…あぁ昔読んだな」という人も、「ショートショートは筒井康隆だろ」なんて人も、ぜひ読んで欲しい。これからの夜長にぴったりです。
日差しの強さは変わりませんが、今日から風が変わりましたね。…秋の気配。
バーでひとり、アエラモルトのロックなんて飲みながらなんてのもありです…隣に座った美女には目もくれずに。
採血なるもの
投稿日時:2008/08/15(金) 00:37今日は採血、という朝は、少しドキドキする。
血液というのは、誠に正直で、しかも雄弁…
今の自分を真っ裸にしてくれる。
腫瘍マーカー値はもちろん、いくら元気を装っていても 、赤や白だの血球量が、今の自分の“そのママ”を映し出す。
余計なことに、腎臓や肝臓などがちゃんと機能しているかなんかも、バレてしまう。
癌で入院してるのに、お酒飲み過ぎですねぇ~なんてことも言われたりする…
大きなお世話です。
隠し事はしない質なんでね…などと言っていても、
そうありたいというだけで、恥ずかしいことなどは、自ら口にしないだけ。
昔から格好つけて生きていた僕などは、
この真っ裸にされる感じが、とても落ち着かない。
陳腐に例えると、あのテストの答案を返される感じ。
見たいけど見たくない…ああっ~恥ずかしい。
「先生だけは、この52点という点数を知っている」
採血次第では、天国と地獄。マーカーの数値は人生を左右し、
白血球の数値は、週末に外泊できるか否かを決定する。
先日の話。
僕と僕と同室の男性が採血結果を待っていた。
普通の病院に外来で通っているのであれば、
一般的なデーターの検査でも2~3日は待たされる。
しかしここがんセンターでは,早ければ1時間半で検査結果は出てしまう。
採血を8時に終えれば、10時にはデーターは出ている。
ただし、あくまで採血の結果が出たというだけ。
ここに“医師の判断”がなければ数字は意味を持たない。
外来を忙しくこなし、医者が患者さんごとに“判断”を伝えに
病棟に上がってくるのは、1時を回る。
その日は、特に外来が混んでいるらしく、
3時を過ぎても医者は姿を見せなかった。
同室の男性の所には、午前中早い時間から、
奥さんと小学校にあがったくらいの娘さんが、顔を出していた。
「パパ痛 くないの?」
「痛くないよ」
「ふぅん…ねぇ早く帰ろうよぉ」
「もうちょっとだから待っててね」
「あなた…今夜は何食べたい?」
「(笑)…そうだなぁ…何でもいいよ」
絵に描いたような…とはこういうことだ。
普段は当たり前過ぎて意識していない幸せは、
こういう時に改めて感じるのだろう。
「ごめんなさいね、先生、外来が忙しくて…もう少しお待ちくださいね」
「はい」
「体調はいかがですか?」
「調子いいですよ」
「採血結果よければ…外泊ですよね」
「明日ね。花火行くのぉ~ねぇ~」
「あらぁ~いいわねぇ~」
病院という場所では、パパさんの威厳も優しさも、
着古したパジャマのように色褪せている。
自宅に帰れば、ほんとうの自分に戻れるのだ。自然と笑顔も出てしまう。
ママさんもうれしい。
自分が、うれしいのはもちろん、
“あなた”がうれしそうなのが…とってもうれしい。
パパとママがうれしそうだから、“ワタシ”もうれしい。
早く帰ろ…オウチに帰ろ。
ほどなくして先生がやってきた。
「◯◯さん…今からお部屋移ってもらいます」
「え!?…」
「残念だけど…白血球が400しかない」
「………?………」
「お見舞いも当分は無理かな」
「…………」
「奥さんは仕方ないけど、お子さんは…」
「………………」
「◯◯さんすいません。ベットごと動かしますから、すぐ準備してもらえますか」
「…………」
「……荷物片付けないとね…ほらベットから降りて…」
「パパぁ~どうしたのぉ?」
「……………」
遅れること5分
体育会系元気印の看護師2年生…大きな声で…
「もんやさぁん…採血結果出ましたぁ。先生、外泊OKですって!!」
僕は、彼女を睨みつけた。
「……?…」
手招きをして、ベットの脇に呼ぶ。人差し指を唇の前に。
「あっ!?…」
無言で首を振る。
今日も採血の日。
まったく 血を抜きすぎだ。貧血になっちまう。
朝の採血は中条さん。
そのフレンドリイさが、患者とその家族にも評判のホスピタリテイの高い看護師さんだ。
夏休みはカナダにロッキー山脈を見に行くらしい。
ストレスの溜まる仕事、楽しんできてください。
そろそろお昼。
愛する女房の手料理も、可愛い子供との花火も、
ロッキーマウンテンの雄大な眺望も、
僕には、まったく縁がないが、
また今日も、少しドキドキとしながら採血結果を待っている。
知らずに死ねるか VOL.2
投稿日時:2008/08/10(日) 16:27「盆休みは家族でどっか行くの?」
「…うん…嫁さんは、明日から子供連れて実家帰る」
「おまえは行かないの?」
「行かない…仕事だし」
「んっ?…休みないの?」
「いや…あるよ」
「だったら行けば。嫁さん実家どこだっけ…長野…小諸かぁ…
小諸なる古城のほとりよぉ…かぁ」
「………」
「なに?」
「…冷静になって考えたい…って」
「…はぁ~?…あらっ(笑)…あっ、あれかぁ~」
「…そう」
「ばれたぁ?」
「ばれた」
「錦糸町だっけ?…キャバクラ…マリちゃん…どうしてバレた?」
「…箱根の温泉」
「行ったの?」
「うん」
「うんじゃないよ、うんじゃ…なんでバレたの?」
「大阪出張ってことにしてね…‥」
「それで…」
「おみやげ買って帰ったの。…それでバレた」
「なに買ったの?」
「わさび饅頭」
「はぃ!?…なんで大阪で、わさび饅頭なんだよ」
「…新幹線で買ったことにしたんだよ」
「それで?」
「子供がさ…包み紙開けたら…出てきたんだよ」
「…何が?」
「旅館のパンフレット」
「……??」
「ママ~これなぁに?って…」
「子供が?」
「子供が」
「ごまかせない?」
「またのお越しをお待ち申し上げておりますって、女将さん直筆の付箋が付いてて…」
「……!…マリちゃん?」
「たぶん」
「だから…盆休みさぁ暇なんだよね…なんか面白いDVDとかない?」
「なんでお見舞いに来て…そんななの、お前は。…許してもらいに行けよ」
「向こうは親戚中いるんだぜ…とりあえず無理」
「…はぁ?…無理って?…仕方ないじゃん!…それに待ってるよ…たぶん」
「そんなんことないよ」
「“信州信濃の新そばよりも、あたしゃあなたのそばがよい”ってね」
「なにそれ、昔のジョーク?」
「相変わらずモノ知らないねおまえは…、でもこの場合、冷静になられたら恐いよ」
「そうかなぁ…」
「冷静…は恐い…マジで」
「お前…癌の癖に…どうして、そういうことわかるの?」
「お前こそ、癌でもないのに、どうしてそんなに馬鹿なの」
「…へへへ…生まれつきだよ」
「…生まれつきかぁ…‥じゃあ仕方ないね…っておい!…20年くらい寄越せ!…お前の人生!」
◆◆◆ 「立川志の輔の落語」 ◆◆◆
夏は落語と紹介するわけではありません。志の輔は…どんな時でも聴いていたい、
聴いて欲しい噺の達人です。もちろん寄席に行って生で観て、聴くのが一番なのですが…
落語協会を脱退している談志一門、そう簡単にはお目にかかれません。
中でもパルコ劇場を1ヶ月貸し切り行われる「志の輔落語」などは、1万2000席が、
即日売り切れます。ここでの演目のメインは、志の輔オリジナルの“創作落語”。
まぁ…これが…凄い!! 。
笑って…笑って…また笑って…じ~んっときて…手に汗握って…また笑って…
それで最後にぐわわぁ~んと感動が押し寄せる。
古典好きな僕は、今まで「創作落語」は敬遠していました。
若手がいかにも“現代の笑いを” とおもねる感じがたまらなく嫌で。
またこれがつまらない。
古典をちゃん聴かせられないで…「下手な今風で誤魔化すな」と(笑) 。
だから、志の輔の創作落語の評判を耳にした時も…あれだけ上手い人が…
何故に創作?と思いました。
…その後に、録画頂いたパルコ劇場の独演会を観て…その完成度の高さにびっくりです。
たぶん思うのですが…もう、彼の中では古典だけでは物足りないのでしょう。
もっとお客さんを楽しませたい。
もっともっと…と追求したその先が“創作落語”だったのでしょう。
志の輔落語は、落語を知らない方も大丈夫…というか、
聴いたことのない人にこそ、聴いて欲しい、観て欲しい。
ある噺の枕で、志の輔は言います。
「人間、怒ったり泣いたりするタイミングは、99%おんなじ。
でも、笑いだけは違う。ひとそれぞれ。だからこの商売難しいんです」 と…。
志の輔落語は、その笑いのタイミングが100%揃ってしまう…
そういう極上のエンタテイメントです。
※ここに紹介するのは、パルコ劇場の作品で
DVD化(映像)しているものだけにします。
●「歓喜の歌」
昨年、小林薫で、映画化されたので、ご存知の方もいるかも。
まだ観ていない方は、映画ではなく、志の輔のオリジナル落語を観てください。
舞台は年の瀬もおしせまった30日…とある町の文化会館。
主任さんと部下の2人が、大晦日のホールの予約をダブルブッキングしていることに気がつくところから始まります。予約は“名前の似ている2つのママさんコーラス”。
はじめは、ママさんコーラスと馬鹿にしていた主任さんでしたが、彼女たちが、コーラスに打ち込んできたその真剣さにを知るにつれて…だんだんと気持ちが変わってきます。
志の輔は、この、どこにでもいる“小役人”の心の変化を絶妙に演じます。
●「ガラガラ」
正月の商店街の福引会場。「1等!豪華客船世界一周の旅。ペアでプレゼント」
この1等をなんと“7本”も入れてしまったことで始まる大騒ぎ。
なぜ7本も入れてしまったのか?2等以下はどうなんだ?1等は何本でるのか?…そして商店街の将来は? お話しは、商店街の会長や福引に来たお客さん達を巻き込み、おもしろおかしく、高速展開してゆきます。
●「メルシーひな祭り」
地方の商店街を舞台に職人が作る雛人形を求めてフランス特使夫人とその娘が商店街の人々と繰り広げる人情喜劇。
ひな飾りがお目当てのフランス特使夫人とその娘が、人形職人を訪ねて地方の商店街へ。しかし、その職人の専門が“人形の頭だけ”だとわかり、同行していた外務省の役人は大慌て。みかねた商店街の人々は、日本の思い出になんとかひな飾りを見せてやろうと一致協力するのですが、やがて事態は思わぬ結末へ…。
※ほんとうは、他にも紹介したい作品がたくさんあるのですが、映像付はなにせ手に入らない。
僕がいちばん好きな噺は、「中村仲蔵」、WOWOWで以前のパルコ劇場での公演を放送してくれていまして、この録画をダビングしてもらいますので、ご希望の方はいつかお貸しします。
ただ、“映像なしの音声だけ”のDVDなら他にもいくつも手に入ります。
「しじみ売り」などの人情噺は、もう“絵”が目に浮かびます。
現代創作モノですと「みどりの窓口」「はんどたおる」などは、もう抱腹絶倒の連続。
映像はなくとも、志の輔の天才ぶりを充分に堪能できます。
※上記3本がセットになったDVDをここから買えます。
(このDVD購入はMON:Uとは関係ありませんので、あしからず・・・)
◆◆◆ ◆◆◆
「おっ!…面白ろそうじゃん!…志の輔かあ…」
「お前はいいの。早く、奥さんところ行けよ!」
「…帰ったら…いっしょに観ようかと…」
「…じゃあこうしろ!まずは車で迎えにゆく」
「迎えに?」
「そう。土下座でもなんでもして、とにかく、車に乗せろ」
「はあ。」
「それで、志の輔の落語を車で聴かせる…そうだなあ…“みどりの窓口”…あたりか
ら…
中央高速を走っている間中…ずうっと志の輔落語…」
「…それでどうなる」
「家に着いている頃には、少なくとも、話しは聞いてくれる位に、怒りは収まってい
るはずだよ」
「そんな簡単にいかないよ」
「いくから絶対。俺を信じて、っていうか、志の輔を信じて。」
「…わかった やってみる」
「ただ、ひとつ注意しておく」
「なに?」
「面白すぎて お前がゲラゲラ笑わないように。事前に一通り聴いておくこと」
「了解」
「…うん…嫁さんは、明日から子供連れて実家帰る」
「おまえは行かないの?」
「行かない…仕事だし」
「んっ?…休みないの?」
「いや…あるよ」
「だったら行けば。嫁さん実家どこだっけ…長野…小諸かぁ…
小諸なる古城のほとりよぉ…かぁ」
「………」
「なに?」
「…冷静になって考えたい…って」
「…はぁ~?…あらっ(笑)…あっ、あれかぁ~」
「…そう」
「ばれたぁ?」
「ばれた」
「錦糸町だっけ?…キャバクラ…マリちゃん…どうしてバレた?」
「…箱根の温泉」
「行ったの?」
「うん」
「うんじゃないよ、うんじゃ…なんでバレたの?」
「大阪出張ってことにしてね…‥」
「それで…」
「おみやげ買って帰ったの。…それでバレた」
「なに買ったの?」
「わさび饅頭」
「はぃ!?…なんで大阪で、わさび饅頭なんだよ」
「…新幹線で買ったことにしたんだよ」
「それで?」
「子供がさ…包み紙開けたら…出てきたんだよ」
「…何が?」
「旅館のパンフレット」
「……??」
「ママ~これなぁに?って…」
「子供が?」
「子供が」
「ごまかせない?」
「またのお越しをお待ち申し上げておりますって、女将さん直筆の付箋が付いてて…」
「……!…マリちゃん?」
「たぶん」
「だから…盆休みさぁ暇なんだよね…なんか面白いDVDとかない?」
「なんでお見舞いに来て…そんななの、お前は。…許してもらいに行けよ」
「向こうは親戚中いるんだぜ…とりあえず無理」
「…はぁ?…無理って?…仕方ないじゃん!…それに待ってるよ…たぶん」
「そんなんことないよ」
「“信州信濃の新そばよりも、あたしゃあなたのそばがよい”ってね」
「なにそれ、昔のジョーク?」
「相変わらずモノ知らないねおまえは…、でもこの場合、冷静になられたら恐いよ」
「そうかなぁ…」
「冷静…は恐い…マジで」
「お前…癌の癖に…どうして、そういうことわかるの?」
「お前こそ、癌でもないのに、どうしてそんなに馬鹿なの」
「…へへへ…生まれつきだよ」
「…生まれつきかぁ…‥じゃあ仕方ないね…っておい!…20年くらい寄越せ!…お前の人生!」
◆◆◆ 「立川志の輔の落語」 ◆◆◆
夏は落語と紹介するわけではありません。志の輔は…どんな時でも聴いていたい、
聴いて欲しい噺の達人です。もちろん寄席に行って生で観て、聴くのが一番なのですが…
落語協会を脱退している談志一門、そう簡単にはお目にかかれません。
中でもパルコ劇場を1ヶ月貸し切り行われる「志の輔落語」などは、1万2000席が、
即日売り切れます。ここでの演目のメインは、志の輔オリジナルの“創作落語”。
まぁ…これが…凄い!! 。
笑って…笑って…また笑って…じ~んっときて…手に汗握って…また笑って…
それで最後にぐわわぁ~んと感動が押し寄せる。
古典好きな僕は、今まで「創作落語」は敬遠していました。
若手がいかにも“現代の笑いを” とおもねる感じがたまらなく嫌で。
またこれがつまらない。
古典をちゃん聴かせられないで…「下手な今風で誤魔化すな」と(笑) 。
だから、志の輔の創作落語の評判を耳にした時も…あれだけ上手い人が…
何故に創作?と思いました。
…その後に、録画頂いたパルコ劇場の独演会を観て…その完成度の高さにびっくりです。
たぶん思うのですが…もう、彼の中では古典だけでは物足りないのでしょう。
もっとお客さんを楽しませたい。
もっともっと…と追求したその先が“創作落語”だったのでしょう。
志の輔落語は、落語を知らない方も大丈夫…というか、
聴いたことのない人にこそ、聴いて欲しい、観て欲しい。
ある噺の枕で、志の輔は言います。
「人間、怒ったり泣いたりするタイミングは、99%おんなじ。
でも、笑いだけは違う。ひとそれぞれ。だからこの商売難しいんです」 と…。
志の輔落語は、その笑いのタイミングが100%揃ってしまう…
そういう極上のエンタテイメントです。
※ここに紹介するのは、パルコ劇場の作品で
DVD化(映像)しているものだけにします。
●「歓喜の歌」
昨年、小林薫で、映画化されたので、ご存知の方もいるかも。
まだ観ていない方は、映画ではなく、志の輔のオリジナル落語を観てください。
舞台は年の瀬もおしせまった30日…とある町の文化会館。
主任さんと部下の2人が、大晦日のホールの予約をダブルブッキングしていることに気がつくところから始まります。予約は“名前の似ている2つのママさんコーラス”。
はじめは、ママさんコーラスと馬鹿にしていた主任さんでしたが、彼女たちが、コーラスに打ち込んできたその真剣さにを知るにつれて…だんだんと気持ちが変わってきます。
志の輔は、この、どこにでもいる“小役人”の心の変化を絶妙に演じます。
●「ガラガラ」
正月の商店街の福引会場。「1等!豪華客船世界一周の旅。ペアでプレゼント」
この1等をなんと“7本”も入れてしまったことで始まる大騒ぎ。
なぜ7本も入れてしまったのか?2等以下はどうなんだ?1等は何本でるのか?…そして商店街の将来は? お話しは、商店街の会長や福引に来たお客さん達を巻き込み、おもしろおかしく、高速展開してゆきます。
●「メルシーひな祭り」
地方の商店街を舞台に職人が作る雛人形を求めてフランス特使夫人とその娘が商店街の人々と繰り広げる人情喜劇。
ひな飾りがお目当てのフランス特使夫人とその娘が、人形職人を訪ねて地方の商店街へ。しかし、その職人の専門が“人形の頭だけ”だとわかり、同行していた外務省の役人は大慌て。みかねた商店街の人々は、日本の思い出になんとかひな飾りを見せてやろうと一致協力するのですが、やがて事態は思わぬ結末へ…。
※ほんとうは、他にも紹介したい作品がたくさんあるのですが、映像付はなにせ手に入らない。
僕がいちばん好きな噺は、「中村仲蔵」、WOWOWで以前のパルコ劇場での公演を放送してくれていまして、この録画をダビングしてもらいますので、ご希望の方はいつかお貸しします。
ただ、“映像なしの音声だけ”のDVDなら他にもいくつも手に入ります。
「しじみ売り」などの人情噺は、もう“絵”が目に浮かびます。
現代創作モノですと「みどりの窓口」「はんどたおる」などは、もう抱腹絶倒の連続。
映像はなくとも、志の輔の天才ぶりを充分に堪能できます。
※上記3本がセットになったDVDをここから買えます。
(このDVD購入はMON:Uとは関係ありませんので、あしからず・・・)
◆◆◆ ◆◆◆
「おっ!…面白ろそうじゃん!…志の輔かあ…」
「お前はいいの。早く、奥さんところ行けよ!」
「…帰ったら…いっしょに観ようかと…」
「…じゃあこうしろ!まずは車で迎えにゆく」
「迎えに?」
「そう。土下座でもなんでもして、とにかく、車に乗せろ」
「はあ。」
「それで、志の輔の落語を車で聴かせる…そうだなあ…“みどりの窓口”…あたりか
ら…
中央高速を走っている間中…ずうっと志の輔落語…」
「…それでどうなる」
「家に着いている頃には、少なくとも、話しは聞いてくれる位に、怒りは収まってい
るはずだよ」
「そんな簡単にいかないよ」
「いくから絶対。俺を信じて、っていうか、志の輔を信じて。」
「…わかった やってみる」
「ただ、ひとつ注意しておく」
「なに?」
「面白すぎて お前がゲラゲラ笑わないように。事前に一通り聴いておくこと」
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