紋谷のソコヂカラ ブログテーマ:知らずに死ねるか!

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いま、行きたい日本はどこですか?

投稿日時:2008/09/23(火) 11:38

「地味でまじめな鳥取の女」
 
 
少し前に、女性の芸人さんが“自分ネタ”かなんかで喋っていた。
やけに耳に残ってしまった。 
確認しようにも、鳥取出身者が身近にいない。
いるのかもしれないが…わからないので聞くに聞けない。
仮にいたとしても、聞くに聞けない。
 
友人が「海の近くに家引っ越そうかと思うんだけれど…」
というので、茨城とか千葉はどう?…というと、
 
「なんか 行き止まりみたいで…」
 
と答えた。ああ…わかるその感じ。
 
銀座の店にバイトで来てくれていた学生の森君は
 
「茨城と千葉は、お互い、同じ扱いされたら怒りますね…
でも埼玉の奴と話すと、団結しますよ」と言っていた。 
 
青森の女性3人と同じ職場になったことがある。
 
3人とも色が抜けるほどに白く、目鼻立ちが整った美人…
仕事に対しても実にまじめ。
探してでも自分の仕事を作り出すタイプで、受け答えも、完璧。
 
中のひとりが、僕とデスクが近かった。
ある日、彼女宛に電話が…
 
「ζβ▼○○□□…ηηββ…?□γγ…○○θξξ∵▲…○○…」
 
今まで耳にしたことのないような会話…
あまりに気になり、後でさっきの電話は誰から?…
と聞くと
 
「実家の姉から…です」と恥ずかしそうに言う。
「じゃあ同じ青森出身者の ○○さん □□さん 
とかと話すと おんなじ感じになるの?」

「はい」
 
というので、興味深深のもんやは、
お昼休みに3人に集まってもらい、話してもらうことに。
話してもらう…というのもヘンですが、世間話でもと振ると、
そこはそれ、察しが良い彼女たち、
ひとりが「κα…◆?○ξξ…θ」と始めると、
加速度的に会話が始まる。
 
これが、最高でした。 
あっけにとられるというのはまさにこのことで…
何を言っているのかはもちろんわかりませんが、
会話ではなく「SHOW」を観ているという感じ。
楽しかった。
聞くと、津軽と南部とでは、同じ青森県でも、
微妙に方言が違うと言います、
僕には、インドネシア語とバリ語の違いより分からない…でも、
 
「ああ、素の彼女たちがここにいた」
 
と思いました。いつかカラオケで思いっきり
「青森の言葉しばり」でやってくれないか?と言うと、
もんやさんと4人ならよいと言うので楽しみにしているが、
以来、機会をつくれないまま、離れてしまった。
残念でならない、いつかその場をつくりたいとまじめに思う。
 
静岡は車で来られた方はわかると思いますが、
東西に長いため、
(新幹線とかで関西に出張しても、…まだ静岡かい!
…と突っ込まれた方多いと思います)
地域で方言も多少は違う。
とはいえ、アクセントや語尾のイントネーションが違う程度のことで、
 
「~らあ ~らあ」 
言っていたらまず静岡人です。中でも、

「そりゃあほうだら」とか「あぁ~なにゆってるだあ~」

なんてべらんべえな感じに喋っていたら
三河…に近い西部地方の静岡人です。
 
愛知県ほど閉鎖的でなく、
神奈川ほどあかぬけてなく、
富士山は「うちらのもの」と
山梨人相手にまじめに喧嘩できます。
 
高校卒業すると関東へも関西へも出てゆきます。
北はアルプスに蓋をされている分、東西への流れは潤滑。
 
東海道の時代から、まあなんというか
「東から人が入り、西から抜けてゆく」
またその逆も…という地域。
県民もどこかそういうことに無頓着で、
「お好きにどうぞ」な人たち。
 
サッカーの会話をするとよく分かります。
というか、実は、静岡人とは、
サッカーの会話はしないほうがよいです。

W杯~Jリーグ~ワールドフットボールへと
ファンの広がりを見せる、はるか以前から盛んでしたから、
特に40歳以上の「静岡サッカー好き」は要注意。
簡単に言うと、
“金子さんの理論をセルジオ節で語る”感じ(わからない人はいませんね)
 
たとえば、天皇賞の決勝あたりのハーフタイムにトイレに行くと、
用を足しながら首だけお互いに向けて、
「サイドが甘いよね」「つうか…へた」
「へただねえ」「これじゃ駄目だら~」とか 
話している小学生がいたら必ず静岡人。
いまでこそ、当たり前の光景ですが、
実際30年前の国立でこんな感じでした。
 
もっと感動しろよ!
と突っ込みたくなると思うでしょうが…
これで楽しんでいるのです。
 
「体力に劣る日本は、組織で…」この言葉が大嫌い。 
個人のチカラがしっかりしていなければ、
人数増やしても結局はおんなじ。
前の敵を自分のドリブルでかわせないなら…

引っ込め! 

僕が中学時代とか、みんなそう考えていましたから、
「ボールと友達になる」べく
静岡サッカー少年は日々、修練していました。
指導者にブラジル人が多いこともあってか、
華麗なるプレーのみが優先。
縦パスどーん!なんてのは邪道の極みです。

最近のオリンピックでいうところの、
「腰引いて 斜めに組んで 足とるなら 柔道じゃないじゃん!」
と同じでした。
 
この気質は、今も同じ。
だから高校選手権あたりでは勝てない(笑)
でも、プロになるとその差が出てきます。
個人が自分を強くするために、基本をちゃんとやるから、
体が出来てくると真価が発揮できる。
Jリーグに静岡人が多いのもそのおかげです。
 
いけない。サッカーの話になってしまいました。
ジュビロ磐田がふがいないせいです。
 
 
お国柄、人柄の話は、「秋は温泉だなあ~」と思っていたら、
なんとなく浮かんだだけです、別に比較とか…
そんな話でもなく、いったことのない日本があるのはもったいないなあ~
といつも思っていて、
ただ、行ったことがないから…行く 
と言うのでは、その気にならないのですが、
 
「よい宿のよいお湯で、
滋味深い食べ物に地酒、
そこに季節の風景が加われば最高」
と解釈し直せば
 
「いつか行けると思うのではなく、
あえて行きたいところ」となります。
 
僕がいま行きたい日本は?と聞かれたら
 
①北海道 知床半島 温泉は羅臼岳にある「岩尾別温泉」 
日本最東端の温泉 
宿は「ホテル地の涯」 
武田泰淳の小説「ひかりごけ」を読んで以来のあこがれの場所です。
ヒグマや鹿が住む原始の森から、
知床半島の断崖を経て、オホーツクに滝となだれ込む知の果て
(知床はアイヌ語で“シリエトク”地の果てるところの意味です)。
露天は谷の斜面に、岩は自然と苔にむし、周囲は原生林…
そんなところです。行くとしたら夏ですね。
 
②秋田 乳頭温泉 宿は「鶴の湯」 

全国温泉人気投票で何度もNo1と…
有名な温泉で休日昼間は、
立ち寄り湯のお客で風情もないらしいのですが、
平日や夜は別世界らしい。

素朴な湯治場に何気なく顔を出し、
乳白色の露天に浸かり、枯れススキに月を眺める…
じゅるじゅるな感じですね。
 










③石川 よしヶ浦温泉 能登半島の最北端。
ここへはローカルな七尾線でトコトコ行きたい。
終着の蛸島駅からさらにバスで30分。
さらに歩いて15分…泊まりは「ランプの宿」。
海にせり出す露天風呂は日本海の荒波がしぶきとなって降りかかる。
ここは飯もうまいらしい、蟹の季節に行かねばならぬと…ああ恋しい。
 
 
…この調子で行くと 鹿児島までチョイスしていたら…
夜が明けてしまいますし、
遠くてと二の足踏まれる方には参考にならないので 
僕が行ったことがあり、東京から比較的近く、お勧めを2つばかり…
 
 
○山形県 白布温泉 

西吾妻山の麓、天元台にあります。
鎌倉以来の開湯、上杉家歴代の定宿ですから、
歴史のある温泉場です。風格ある茅葺屋根の宿が多いです。
また坂道に連なる数件のおみやげやさんがとってもよいです。
浴衣に下駄で。

◆ロケーション5 
◆宿の雰囲気 5 
◆ごはん   5 
◆おもてなし 5 
◆お湯    3 
 
中屋が定宿でしたが 残念なことに数年前に焼失(別館の不動閣は営業中) 
その近くにある東屋さん 西屋さんは同じテイストの宿ですので大丈夫。
秋に最適、雪が降る前に福島から檜原湖から
西吾妻スカイバレーでエントリーすると紅葉が絶景です。
帰りは米沢に抜け、米沢牛とたまこんにゃく。
 
○静岡 修善寺温泉 「あさば」 

小説失楽園にも登場する有名旅館です。 
奥には「薪能の舞台」があり、
舞台のない日を選べば比較的安いです。
ここは好きな異性と行くには最適な宿です。
夜に池を挟んで、ライトアップされた能の舞台を
眺めるというのは、そうそうない景色。
僕は、男2人で行ったのですが、
銀座のママさんにさんざんコケにされました(笑)
また、修善寺というのは、
桂川のほとりにほっこりと切り取ったような場所で、
軒を連ねた遊技場や定食屋さんは昭和の風景。
散歩にもお勧め。
でもやはりいちばんは“食事” 
僕は、温泉でこれほどうまい飯を初めてたべました。

黒米のあなご寿司!! 
朝積みのいちご!!… 
はあ~最高です。

◆ロケーション 5 
◆宿の雰囲気  5 
ごはん    7  !! 
◆おもてなし  4 
◆お湯     3

箱根の高いばかりの宿に比べたらぜんぜんよいです。 
やはり伊豆は中伊豆を実感します。
 
最近、箱根、伊豆近辺には、コンセプチャルな温泉宿が乱立していますが、
結果、どこもそこそこ…
ひっつかかるポイントもないまま、なんとなくおしゃれ…
「浴衣選べます」「秋のきのこづくし」「お食事は部屋出しで」
「レイトチェックアウト」…だまされては駄目です。
ほんとうによいところはやはり違います。
値段ではなくすべてが。

近場お勧めもまだまだありますから、
お気軽にお問い合わせください。

気にしないで…お勧めが趣味ですから(笑)
 
 
 
 

知らずに死ねるか VOL.5

投稿日時:2008/09/16(火) 22:50

「ボールのない甲子園 と 知ら死ね少々…」

毎年、夏に注目している“甲子園”があります。
といっても、野球ではありません。全国高校文化部の熱き闘い。

ひとつは俳人の町、愛媛松山で開催される「俳句甲子園」
もうひとつは、北海道大雪山国立公園一帯で行われる「写真甲子園」です。

 簡単に説明すると、俳句甲子園(以下俳句)の方は、
地方予選を勝ち上がった5人1組が、与えられた兼題をテーマに、
俳諧の句合わせを行うというもので、
8月19日(俳句の日)に全国大会が行われます。
初めは愛媛県内の9つの高校で始まったものが、
今では全国27の都道府県で予選を行うまでの規模に膨れ上がりました。
一方の写真甲子園(以下写真)の方は、毎年7月開催、
全国8ブロックから選出された3人1組が2日間の本戦を戦い頂点を決めるというもの。
ともに、チームの単位は高校です。

「俳句や写真で…戦うって?」
勝敗の明らかなスポーツとは違い、
どちらとも戦いには不向きなのではと思われますが、
それがこの甲子園の面白さでもあります。
もちろん専門家や識者が審査員となり最終の優劣を決めるのですが、
たとえば、俳句の場合、句合わせに面白みがあります。

お互いが句を発表しあった後に、数分間の質疑応答タイムが設けられていて、
自句が「いかに素晴らしいか」
また、「相手の句がいかに不出来であるか」をディベートし合い、
これも勝敗を分ける重要な要素となるのです。
たとえば 今年の決勝。愛媛 愛光高校と東京開成の試合では、

 ◆ 髪洗う散文的な男です (愛光)
の句に対して、
「散文的というと、だらだらとしてという印象でしかない、
それを男と言い切ることに意味があるとは思えない。不明確ではないか」(開成)
「いやいや、そこを理解してもらわないと困る。
高校生が毎朝当たり前のように身だしなみを整える光景、
ふと顔をあげるとそこに間抜けな自分の顔が…そこを自虐的に…」(愛光)
などという感じであります。

また、

 ◆行間の明るき文や小鳥来る (開成)
の句に対しては、
「その本の面白さを、小鳥来るで表現している意図はわかるが、
明るいというニュアンスはあえて入れ込む必要があったのか?」(愛光)
「読んでいる筆者の想いがまず、明るいにあらわされている…
ここが重要なのです」(開成)

※このあたり僕も細かいやりとりは忘れましたが…
まあこんな感じということです。
念のため。

などと、どうでもいい人が聞いたら、
まったくどうでもいい議論が展開されるのですが、
高校生侮りがたし、プレゼンのうまい奴はものすごくうまくて、
「こいつは文学教授か!」と、思わず突っ込みたくなるような喋りを
朗々と謳いあげる輩もいて、なかなか見ごたえがあります。
今年の決勝は、対戦両校とも男子5人組でしたが、
もちろん女子5人組などもいらして、
そんな相手と対戦すると、ニキビ面の男子たちが相手を意識して、
しどろもどろに…
なんて光景は微笑ましい一興。

写真の方は、2日間とも、決められた時間内に、決められたフィールド
(といっても、東川・美瑛・富良野町一帯ですから、相当の広さ)を
カメラ片手に走り回り、ひとつの「組み写真」を仕上げるというものですが、
決勝では、壇上で自分たちの作品をスクリーンに映し、
その企画意図をプレゼンするわけです。
北海道の大自然だけではなく、そこに働く人たちの横顔やあるものすべてを対象に、
ひとつのテーマを決めて創作、
その上でのプレゼンは、初めて訪れた北海道についての素直な感想や、
感じたことを詩や手紙形式にして発表したり…またこれもさまざま。
NHKで毎年ドキュメントとして放送してくれますと、
3人がそれぞれにフィールドを駆け回り、
撮影に奮闘する有様や、その後、撮影した写真、
数百点から組み写真に仕上げるために絞り込んでゆく過程などが描かれていて、
その真剣さにひかれます。

今年の優勝は「新潟県立柏崎常盤高校」男女の混成チームでした。
プレゼンの様子は放送されませんでしたが、優勝を決めた組の写真はもちろん、
予選でのエントリー作品と本戦でのファースト作品いずれも、
チカラを感じさせる出来で、感心いたしました。
(ネットで見る事ができます:
ブログ用に1枚拝借、転載させていただきましたが、趣旨ご理解ご容赦を)



俳句、写真以外にも、ブラスバンドや合唱やボイパ、
書道やロボコンやダンス…といわゆる一般的な、
スポーツ競技ではないところでの高校生の戦いはいっぱいあります。
僕などはチームでなにかを目指した経験がないので、
これくらいの年の“あやうい人間関係”が生み出すパワーは、まぶしいくて、
うらやましくて、ついつい見入ってしまいます。 
別に将来がどのこうのではなく、みんなで何かを目指す…
そういうことを始めようとする子供に育ってくれれば、人生面白いなあ…と思います。
最近、幼稚園から高校生までの新しい友人が どんどん増えてゆくので(笑)、
そのお父さん、お母さんに向けて。


このまま終わるのもなんなんで、文化の秋賛歌…いま、お勧めの小説などを少々。

◆◆◆ 「羊の目」著:伊集院静 文言春秋社 ◆◆◆

「乳房」 「受け月」と過去に読ませていただき、
ああ…この人は現代作家の中では、いちばん文章がうまい方だなあ…
と感嘆致しました。
今回の「羊の目」も、まったく感嘆! 
どちらかといえば、男子向きの作品ですので、万人にどうか…
はございますが、まあ…面白い。
これを読むまでは、伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」
上半期NO1かなあ…などと思っておりましたが、逆転です。
僕などが評するのは恥ずかしいので、思うことを2つ。
「やはり才のある方に経験が積み重ねられると、
言葉ひとつ、状況描写ひとつに重みがあるなあ」ということ。
もうひとつは、「1年に何作も書かれている作家さんは、
どしても作品ごとにムラがあったり、
その作風が故、飽きてしまい、もしくは飽きないような“趣向”がまた、
作品そのものの質を落とすことにつながるので、
ほんとうに良い物を生み出すののは
“本人が書きたい時に書きたいテーマで”が一番!ということです。
※作品の内容を知りたい方はご検索を。


◆◆◆ 著:和田竜 「のぼうの城」小学館 / 「忍びの国」新潮社














両作品とも、キャラクターが半端ではなく立っています。
戦国ものはあまり読まないのですが、
文献を参照にした史実をベースに、その中味を解きほぐし、
人物設定をして、物語を構成する術は、相当な手練れと
お見受けつかまつりました。
まるで映画を観ているような感覚になります。
エンターテイメントとして大人が楽しみたい作風ですから、
じゃんじゃん発表して欲しいです。ついてゆきます。
※こちらも内容は検索で…

ただ、書評での判断は無駄ですね。
最後まで読まないと、分からないと思います。
この2作品の素晴らしさは。
…でも基本、ジェットコースター系ですから、
読み始めたら早いですよラストまでが。
史実をベースにしていますから、時代考証のところに躓いても、
我慢してください。
そのうち一挙にくだり始めますから。

知らずに死ねるか VOL.3

投稿日時:2008/08/19(火) 09:59

~ ナナちゃん ~
 
海の近くの小さな町に、バーがあった。
小さな町といってもそこそこの住人はいたし、
きれいな浜辺目当てのお客さんが、1年を通じてやってきた。
しかしバーは暇だった。
夏になって、浜辺が人で溢れかえった夜も…バーの入り口の扉が、
開くことはほとんどなかった。

 バーのマスターは、どうしたもんだろう…と考えた。
幸い、考える時間はいくらでもあった。
毎日、朝から晩まで、寝る間も惜しんで考えた。
 
…そしてひらめいた。
翌日から、裏庭の小屋にこもって…朝から晩まで、
トンテンカンテン何かを作り始めた。
毎日、毎日、トンテンカンテン、幸い、時間はいくらでもあった。

 夏が終ろうとするある日、マスターは小屋から出てきて言った。
「できたぞ!」それは、女性のロボットだった。
マスターは手先がとても器用だったから、ロボットは驚くほど精巧に作られていた。
 
ロボットは実際よくできていた。
人工的なものだから、いくらでも美人にはできたのだが、あえて手を加えた。
完璧な美人などというものはつまらないからだ。
理想と思われる鼻は、少し低く、目はぱっちりなんだけど、
少したれ目に…という具合だ。
しかし頭は空っぽだった。
マスターもそこまでは手が回らない。
簡単な受け答えができるだけだし、動作の方もお酒が飲めるだけだった。
 
ロボットはカウンターに置かれた。ボロを出しては困るからだ。
何日かして、はじめてお客さんが彼女の隣に座った。
「名前は」
「ナナちゃん」
「歳は」
「まだ若いのよ」
「いくつなんだい」
「まだ若いのよ」
「だからさ…」
「まだ若いのよ」
 
「いい声だね」
「いい声でしょ」
「また聞きたくなる声だ」
「また聞きに来てね」
 
マスターはカウンターの中でほくそ笑んだ…声は特に苦労したんだ。
高い声はダメ、少し低く、どこか寂しげで、耳をくすぐる感じに。
 
「可愛いね」
「可愛いでしょ」
「よく言われるんだろ」
「よく言われるわ」
「ワイン飲むかい」
「ワイン飲むわ」
「ボトルで頼むかい」
「ボトルで頼むわ」

お酒はいくらでも飲んだ。
ナナちゃんが口にしたお酒は、ナナちゃんのお尻から出た管を通って、
カウンターの中の樽に溜まる仕組みになっていた。

「お客の中で誰が好きなんだい」
「誰が好きかしら」
「僕が好きかい」
「あなたが好きだわ」
 
ナナちゃんの噂は、あっという間に広がった。
美人は美人なんだけど、つんとしていなくて、
余計なお世辞はいわない。
素直で優しくて、何より飲んでも乱れない。
町の男性はもちろん、浜辺に来ていた観光客もナナちゃん目当てにバーにやって来た。
…その中にひとりの青年がいた。

「ナナって呼んでいいかい」
「ナナって呼んでいいわ」
「ほんとはイヤなんだろ」
「ええイヤよ」
 
「僕と付き合ってくれないか」
「あなたと付き合うわ」
「…ほ…ほんとかい」
「ほんとよ」
「からかってるんだろ」
「からかってるわ」

青年は、毎晩通ってきた。
カウンターに他のお客がいる時は、
ナナちゃんの隣が空くまでずうっと待っていた。
 
秋が終り冬になった。それでも、青年は毎晩やって来た。
 
「ナナちゃん。クリスマスはデートしようね」
「デートするわ」
「約束だよ」
「約束よ」
 
クリスマスの日、もちろんナナちゃんは行けなかった。
マスターは、青年の誘いをカウンター越しに聞いていた。
マスターはつぶやいた…仕方ないさ。

 その夜、青年はやって来た。
「…ずっと待ってたんだ」
「ずっと待ってたの」
「初めから来る気なんてなかったんだろ」
「ええなかったわ」
「もうここには来ないから」
「もう来ないのね」
「悲しいかい」
「悲しいわ」
「うそつき」
「うそつきよ」
「ナナほど冷たいオンナはいないね」
「私ほど冷たいオンナはいないわ」

 青年は大きくため息をついた。
「殺してやろうか」
「殺してちょうだい」
青年はポケットから薬の入った小瓶を取り出し、
ナナちゃんのグラスの中に垂らした。
「飲めよ」
「飲むわ」
…青年の目の前でナナちゃんはグラスの酒を飲み干した。
「勝手に死ぬがいいさ」
青年はコートの襟を立て帰っていった。

テーブルで他のお客さんの相手をしていたマスターは、
青年の出て行った扉に向かって言った。
「やれやれ、やっと帰ったか。
だいぶん思いつめていたようだけど、何事もなくよかった」
今夜もバーは満員だった。ラジオからはクリスマスソングが流れていた。
 
「みなさん!メリークリスマス!今宵は私がおごります。心ゆくまで楽しんでください」
「わ~い」
お客さんたちから歓声があがった。
マスターはカウンターの下からお酒の入った樽を持ち上げながらつぶやいた。
「なぁに…おごるといってもね…これだけどね」
 
その夜、バーは遅くまで灯りがついていた。
誰ひとり帰りもしないのに、話し声もなく静かだった。
そのうちラジオも「おやすみなさい」と言って静かになった。
「おやすみなさい」 ナナちゃんはそう応えて、次は誰が話しかけてくれるのかしら…と待っていた。
 
 
◆◆◆  「ほしのはじまり~決定版星新一ショートショート~」 編:新井素子/角川書店 ◆◆◆
 
音楽でも絵画でも、映像でも写真でも、世に出て何十年も経つのに、その魅力がまったく色あせない
というのは…やはり天才の仕業だからでしょう。
僕は小学校6年生の夏休みに、「お-い でてこーい」を読んで読書感想文を書いた。
それは、推奨された課題図書が、長ったらしく退屈な本であったことへの皮肉だったと記憶している。
なぜそんなことを覚えているかと言うと、その僕の感想文は県で「なんやら賞」をもらったからで、その表彰式の壇上で「なぜ星新一を…」 と聞かれ 正直に応えたら…あとで付き添いで来た母親に思いっきり叱られた。感想文の内容はまったく忘れたが、この思いっきり叱られた記憶だけは、今でも覚えている。損な記憶である。
 
長い小説というのは、時にはやっかいで、初めからつまらなけば、止めてしまえるのだが、面白くなりそうだ…なんて感じだったりすると、なんだかんだで読んでしまい…挙げ句にラストまでつまらないと…ひどく損をした気分になる。
 
その点、星新一のショートショートはよい。ひとつひとつが短いからではなく、ひとつひとつが面白いからだ。そんな作品の中でも選ばれた54作品が本著には収められている。

「星新一…あぁ昔読んだな」という人も、「ショートショートは筒井康隆だろ」なんて人も、ぜひ読んで欲しい。これからの夜長にぴったりです。
日差しの強さは変わりませんが、今日から風が変わりましたね。…秋の気配。
バーでひとり、アエラモルトのロックなんて飲みながらなんてのもありです…隣に座った美女には目もくれずに。
 

知らずに死ねるか VOL.2

投稿日時:2008/08/10(日) 16:27

「盆休みは家族でどっか行くの?」
「…うん…嫁さんは、明日から子供連れて実家帰る」
「おまえは行かないの?」
「行かない…仕事だし」
「んっ?…休みないの?」
「いや…あるよ」
「だったら行けば。嫁さん実家どこだっけ…長野…小諸かぁ…
  小諸なる古城のほとりよぉ…かぁ」
「………」
「なに?」

「…冷静になって考えたい…って」
「…はぁ~?…あらっ(笑)…あっ、あれかぁ~」
「…そう」
「ばれたぁ?」
「ばれた」
「錦糸町だっけ?…キャバクラ…マリちゃん…どうしてバレた?」
「…箱根の温泉」
「行ったの?」
「うん」
「うんじゃないよ、うんじゃ…なんでバレたの?」
「大阪出張ってことにしてね…‥」
「それで…」
「おみやげ買って帰ったの。…それでバレた」
「なに買ったの?」
「わさび饅頭」
「はぃ!?…なんで大阪で、わさび饅頭なんだよ」
「…新幹線で買ったことにしたんだよ」
「それで?」
「子供がさ…包み紙開けたら…出てきたんだよ」
「…何が?」

「旅館のパンフレット」
「……??」
「ママ~これなぁに?って…」
「子供が?」
「子供が」
「ごまかせない?」
「またのお越しをお待ち申し上げておりますって、女将さん直筆の付箋が付いてて…」
「……!…マリちゃん?」

「たぶん」

「だから…盆休みさぁ暇なんだよね…なんか面白いDVDとかない?」
「なんでお見舞いに来て…そんななの、お前は。…許してもらいに行けよ」
「向こうは親戚中いるんだぜ…とりあえず無理」
「…はぁ?…無理って?…仕方ないじゃん!…それに待ってるよ…たぶん」
「そんなんことないよ」
「“信州信濃の新そばよりも、あたしゃあなたのそばがよい”ってね」
「なにそれ、昔のジョーク?」

「相変わらずモノ知らないねおまえは…、でもこの場合、冷静になられたら恐いよ」
「そうかなぁ…」
「冷静…は恐い…マジで」
「お前…癌の癖に…どうして、そういうことわかるの?」
「お前こそ、癌でもないのに、どうしてそんなに馬鹿なの」
「…へへへ…生まれつきだよ」
「…生まれつきかぁ…‥じゃあ仕方ないね…っておい!…20年くらい寄越せ!…お前の人生!」


◆◆◆  「立川志の輔の落語」 ◆◆◆

夏は落語と紹介するわけではありません。志の輔は…どんな時でも聴いていたい、
聴いて欲しい噺の達人です。もちろん寄席に行って生で観て、聴くのが一番なのですが…
落語協会を脱退している談志一門、そう簡単にはお目にかかれません。

中でもパルコ劇場を1ヶ月貸し切り行われる「志の輔落語」などは、1万2000席が、
即日売り切れます。ここでの演目のメインは、志の輔オリジナルの“創作落語”。
まぁ…これが…凄い!! 。

笑って…笑って…また笑って…じ~んっときて…手に汗握って…また笑って…
それで最後にぐわわぁ~んと感動が押し寄せる。

古典好きな僕は、今まで「創作落語」は敬遠していました。
若手がいかにも“現代の笑いを” とおもねる感じがたまらなく嫌で。
またこれがつまらない。

古典をちゃん聴かせられないで…「下手な今風で誤魔化すな」と(笑) 。

だから、志の輔の創作落語の評判を耳にした時も…あれだけ上手い人が…
何故に創作?と思いました。
…その後に、録画頂いたパルコ劇場の独演会を観て…その完成度の高さにびっくりです。
たぶん思うのですが…もう、彼の中では古典だけでは物足りないのでしょう。
もっとお客さんを楽しませたい。
もっともっと…と追求したその先が“創作落語”だったのでしょう。

志の輔落語は、落語を知らない方も大丈夫…というか、
聴いたことのない人にこそ、聴いて欲しい、観て欲しい。

ある噺の枕で、志の輔は言います。
「人間、怒ったり泣いたりするタイミングは、99%おんなじ。
でも、笑いだけは違う。ひとそれぞれ。だからこの商売難しいんです」 と…。
志の輔落語は、その笑いのタイミングが100%揃ってしまう…
そういう極上のエンタテイメントです。

※ここに紹介するのは、パルコ劇場の作品で
DVD化(映像)しているものだけにします。


●「歓喜の歌」
昨年、小林薫で、映画化されたので、ご存知の方もいるかも。
まだ観ていない方は、映画ではなく、志の輔のオリジナル落語を観てください。
舞台は年の瀬もおしせまった30日…とある町の文化会館。
主任さんと部下の2人が、大晦日のホールの予約をダブルブッキングしていることに気がつくところから始まります。予約は“名前の似ている2つのママさんコーラス”。
はじめは、ママさんコーラスと馬鹿にしていた主任さんでしたが、彼女たちが、コーラスに打ち込んできたその真剣さにを知るにつれて…だんだんと気持ちが変わってきます。
志の輔は、この、どこにでもいる“小役人”の心の変化を絶妙に演じます。


●「ガラガラ」
正月の商店街の福引会場。「1等!豪華客船世界一周の旅。ペアでプレゼント」
この1等をなんと“7本”も入れてしまったことで始まる大騒ぎ。
なぜ7本も入れてしまったのか?2等以下はどうなんだ?1等は何本でるのか?…そして商店街の将来は? お話しは、商店街の会長や福引に来たお客さん達を巻き込み、おもしろおかしく、高速展開してゆきます。









●「メルシーひな祭り」
地方の商店街を舞台に職人が作る雛人形を求めてフランス特使夫人とその娘が商店街の人々と繰り広げる人情喜劇。
ひな飾りがお目当てのフランス特使夫人とその娘が、人形職人を訪ねて地方の商店街へ。しかし、その職人の専門が“人形の頭だけ”だとわかり、同行していた外務省の役人は大慌て。みかねた商店街の人々は、日本の思い出になんとかひな飾りを見せてやろうと一致協力するのですが、やがて事態は思わぬ結末へ…。






※ほんとうは、他にも紹介したい作品がたくさんあるのですが、映像付はなにせ手に入らない。
僕がいちばん好きな噺は、「中村仲蔵」、WOWOWで以前のパルコ劇場での公演を放送してくれていまして、この録画をダビングしてもらいますので、ご希望の方はいつかお貸しします。
ただ、“映像なしの音声だけ”のDVDなら他にもいくつも手に入ります。
「しじみ売り」などの人情噺は、もう“絵”が目に浮かびます。
現代創作モノですと「みどりの窓口」「はんどたおる」などは、もう抱腹絶倒の連続。
映像はなくとも、志の輔の天才ぶりを充分に堪能できます。

※上記3本がセットになったDVDをここから買えます。
(このDVD購入はMON:Uとは関係ありませんので、あしからず・・・)




◆◆◆    ◆◆◆

「おっ!…面白ろそうじゃん!…志の輔かあ…」
「お前はいいの。早く、奥さんところ行けよ!」

「…帰ったら…いっしょに観ようかと…」

「…じゃあこうしろ!まずは車で迎えにゆく」
「迎えに?」
「そう。土下座でもなんでもして、とにかく、車に乗せろ」
「はあ。」
「それで、志の輔の落語を車で聴かせる…そうだなあ…“みどりの窓口”…あたりか
ら…
中央高速を走っている間中…ずうっと志の輔落語…」

「…それでどうなる」

「家に着いている頃には、少なくとも、話しは聞いてくれる位に、怒りは収まってい
るはずだよ」
「そんな簡単にいかないよ」
「いくから絶対。俺を信じて、っていうか、志の輔を信じて。」
「…わかった やってみる」
「ただ、ひとつ注意しておく」
「なに?」
「面白すぎて お前がゲラゲラ笑わないように。事前に一通り聴いておくこと」
「了解」


「知らずに死ねるか」

投稿日時:2008/07/27(日) 23:18

このブラックで自虐的なタイトルは、日本版のPLAY BOYに1981年から内藤陳さんが連載されていた伝説の面白本紹介コラム「読まずに死ねるか」から頂きました。

第1話の小タイトルは、「ジャックヒギンズを知らない…死んで欲しいと思う」
このタイトルのせいで僕は、IRAで宗教的で孤高なくせに実はさびしんぼう、そんな殺し屋が主人公のヒギンズの小説を全部読む羽目になりました。

今でこそ、年末になると「今年の面白本ランキング」なるものがムックにて発行されたり、週刊誌の編集記事に目白押し、読み損ねた作品をチェックするにはもってこいなのですが、僕が20歳の頃にはまだそこまでのことはなく…個人では小林信彦さん(現在週刊文春にて‘本音を申せば’連載中)くらいしか「指南役」はおらず、そこに登場した「読まずに死ねるか」の“陳メ”で始まるテンションの高い語り口に乗せられて…乗せられ(笑)

「知らずに死ねるか」は…つまらないエンターテイメントに大切な時間を無駄にして欲しくない…そんな僕のおせっかいな押し付け話ですので、興味のない方は無視して頂き…そのまま死んじゃってください(笑)。まあ、知らないで暮らしても、それほど大層な違いはないですから。

●「ワンピース 冬に咲く奇跡の桜」 …いきなりアニメです(笑)
夏休みに併せてのDVD発表でしたから、子どもにせがまれてレンタルされた方も多いと思います。もし、「どうせ子ども向け」と軽く考え、 お子さんだけに観せて自分が観ていないなら、是非、観てください。“延滞上等”僕が許します。
よく「泣ける話」といいますが、この作品で目頭にこない人がいたら、医者に相談すべきです。なんならうちの病院にきてください。僕のベットと点滴をお貸します。
ワンピースというアニメ自体「友情」をテーマにしていますが、この作品では更に「新しい出会いこそが人生を豊かにしてくれる」というスピリットを強く感じさせてくれる仕上がりになっています。ちなみにワンピースの“ワの字も知らない”という方もだいじょうぶ、充分楽しめます。ただひとつご注意を、この作品の面白さに感動して、すでに公開された過去の劇場作品を借りに行ってはいけません。どれも単なる凡作ですから。
蛇足ですがストーリィは原作のエピソードとほぼ同じですが、劇場用に手直しされていて、オリジナルをご存知の方は、始まってすぐ「あれ?」と思われますが、気にせずに。
あぁ…これから観るという方がうらやましい。

ついでに、「観ずには死ねないアニメ」をもう2つ。


●「ベルウイル・ランデブー」2003年配給:クロックワークス
フレンチアニメーションの大傑作ですストーリイはもちろん絵の斬新さ音楽のセンス…最高です
スタジオジブリコレクションです










●「東京ゴットファーザーズ」2003年 今敏監督作品
パプリカの前の作品です
大友系が好きな方にはたまりません。1949年アメリカ映画「3人の名付け親」から着想得た作品ですが、この3人が中年オヤジにオカマに女子校生…設定がしゃれてます。
※ちなみに両作品ともアカデミー長編賞他にノミネートされています

今回は比較的新しめでチョイスしましたが お勧めアニメはまだまだまあります。
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