紋谷のソコヂカラ

我輩は犬である

投稿日時:2008/10/28(火) 00:37

我輩は犬である。
7年生きてきた、ラブラドールレトリーバーのオスである。
 
…悲しいことに、去勢をされてしまったので、
立派なオスとは言いがたい、
足を上げて、かっこよくおしっこが、出来なくなってしまった。
 
まあ、凛々しいオカマさんくらいかもしれない。
 
でも、心は立派なオスである。
 父は、山岳救助犬だったらしい。
 
顔は知らないが、いつだったか、飼い主がそう話してくれた。
 
我輩にもその血が受け継がれているのだが、残念なことに誰かを救助したことはまだない。
 
ちなみに、我輩自身が、救助されたことは2度ほどあるが、その話は、後で。
 
 
名前はある。海と書いて“かい”と読むらしい。
 
漢字は読めないので…どうでもよい。ちなみに、我輩、人間の言葉は理解する。
 
喋れないので、これも、それほどの意味はない。
 
7年前に、ここ横浜にもらわれてきた。暑い夏の日にクーラーもついていないオンボロ車に揺られて。
 
以来、この横浜の家に飼い主と暮らしている。
 
もう1匹、シェトランドシープドックのおばあちゃんがいたんだけれど、
 
今年のお正月に、飼い主の実家(弟さんのお宅)に行ってしまった。
 
彼女の名前はミルキィー…7月7日生まれなのでそう名づけられたらしい。
 
そういうわけで、ミルキィーとは、6年間一緒に暮らしたが、別段仲良しでもなく、
かといって仲が悪かったわけでもない。
 
そんな感じも、飼い主は気にも留めないので…まあよいかという感じであった。
 
我輩自身、やってきた当初は、自分だけが飼われるものだと、思っていたが、そこに、
もう1頭昔から飼われている犬がいたので…びっくりした。
 
可愛がられることを期待していたので、正直、はじめはがっかりしたが、そのうち慣れてしまった。
 
よく言えば、分け隔てなく飼われていたと、いえないでもないが、まあ今となってはどうでもよい。
 
 
不満はある。ここだけの話し、我輩、よく我慢していると思う。
 
飼い主は、必要以上に“猫っ可愛がり”をしない人だ。
 
…いぬっ可愛がり…といいう言葉がないから、借りておく。
 
我輩のプライドにかけて誓うが、決して…「あらあ…かいちゃん!!今日もお元気でちゅかあ~」
 
などと言われたい訳ではないが、もう少し優しくしてくれてもよいと思う。
 
我輩、39Kgもあるから、期待はしてはいけないのだが、抱っこくらいはして欲しい。
 
我慢できなくて、我輩から抱きついてしまうこともあるが、
 
「重い!邪魔!!」
 
は、あんまりではないか。悲しくなる。
 
それでも、懲りずに抱きついてしまう自分も悲しい。
 
こいうのを人間の言葉で、悲しい性…とかなんとか言うのだろう。
 
もう少し言えば、膝枕もして欲しいし、いっしょに眠りもしたい…
朝はぺろぺろとなめて起こしてあげたいし、お風呂だって一緒に入りたい。
 
ついでに言うと、同じペットフードはもう飽きた。
 
たまには、生のお肉が食べたい。ベーコンなんか大好物だ。アイスクリームやケーキだって大好き。
 
そういうことが分かっているくせに、我輩の飼い主は…優しくない。
 
それでもたまに、ごくごくたまに…ケーキを食べさせてくれたりする。
 
「おい!カイ!!今日はデザートあるぞ!!」
 
とかなんとか言いながら。
 
でも、我輩はそれが、我が家で行われる“宴会”の余りモノだということを知っている。
その余りモノは、捨てるには忍びないから…我輩に回ってきたことも…
 
それでも、我輩の尻尾は、激しく揺れる…プライドとは関係なく…激しく揺れる…嗚呼…悲しい性。
 
 
サラリーマン時代の飼い主は、とにかく帰るのが遅かった。
 
こっちは、おしっことうんちと空腹を…一生懸命がまんしているのに、
 
「ただいまああ~ごめんごめんごめん…仕方ないじゃん忙しかったんだよお~」
 
とかなんとか言い訳をするが、そういう時は決まってお酒臭い…またSとか何とかの店に行って、
適当なこと言って、デレデレしていたクセに!
と、愚痴のひとつもこぼしたいのだが…そんなことより、おしっことうんちとご飯である。
 
どうしても許せないのは、お散歩である。
 
我輩の…いや、すべての犬の最大の楽しみ「お散歩」…我々の人生は、
 
「お散歩ではじまり、お散歩で終わる」
 
決して、大げさではない。
 
にもかかわらず、うちの飼い主はお散歩をしない。
 
正確に言うと、お散歩をなめている。
 
「ご近所、犬ばかりなんだから、お前と歩くと…吠えられるは吠えるわ…うるさくて仕方ない。
 それに、適当にうんちとかするし…ここでいいよな」
 
とか言って、家の目の前にある公園にしか連れて行かない。
 
それでも、運動は大切ということは理解しているようで…
 
「ほらあ…行けえ~」
 
と、ボールを投げて、我輩に拾ってこさせる。
 
まったくの手抜きなのだが…我輩、ボールが大好きで、投げられると一目散にかけてしまう。
 
一生懸命に拾ってはまた、投げて投げて!と催促までしてしまう。
 
…悲しい性である。
 
それでも、いつか、この優しくない飼い主に反抗してやろうと思っていた。
 
 
過去に、2度ほど飼い主の目を盗んで、公園から脱走を図ったことがある。
 
1度目は、夜中…飼い主が目を離した好きに…路地に逃げ込んだ。
 
プラプラと真夜中の散歩…3kmほど、坂を下り、小学校の校庭で遊んでいた。
 
朝になり、子供たちが、じゃんじゃんやってきて、我輩を見つけておおはしゃぎ…
 
しまいには、先生も交えて遊んでしまった。
 
そのうちに事件が!
我輩が調子付きすぎてしまい、小学生の男の子にのしかかり…その子が転んで…
ひざをすりむいてしまったのだ。
 
誓って言うが、我輩に悪気はなかった。それでも、これはまずい…
そろそろなんとかしなければいけないと先生たちが我に返るのには、充分な事件。
 
そのうち…窓枠に金網の張ってある大きな車がやってきた。
 
我輩、何事かわからず…引っ張られるままに、その車に乗せられた。
 
我輩、ドライブは大好きである。
 
連れられた先は、海の近く(潮の香がした)…コンクリートの大きな建物…中に入ってビックリした!
 
鉄格子に囲まれた小さな部屋がいくつもある。そして、そのひと部屋ごとに3~4頭の犬がいる。
 
怖かった…こんな場所初めてだ…そこで一晩明かした。
 
その晩、同じ部屋の犬と、話した、
 
「ここは、保健所の犬の処理施設さ。ここで、飼い主が引き取りに来てくれなけりゃ、殺されるんだぞ」
 
と教えてくれた。
 
「ここにいる全員がそうなの?」
 
「ああ、あいつは、飼い主に捨てられた奴、引越しで取り残されたらしい。
むこうの奴はもそう。あっちは、飼い主が飼えないって…ここに、預けて行ったそうだよ」
 
「ええ!?じゃあ?」
 
「そうそう。もう誰も引き取りにこない」
 
「いつ、殺されるの?」
 
「ここにいられるのは3日だけ」
 
…怖かった…一晩中…どうしていいのか…わからないほど怖かった。
 
 
翌日の昼に…飼い主がやってきた。
 
回りの犬が…みんながいっせいに「僕を連れていって!」「ここから出して!!」
 
って吠え立てた。 飼い主は、一瞬、その光景にビックリしていた感じだったけど、
 
我輩を見つけると…優しそうな顔になって…
 
「いた、いました」って。
 
係りの人が、部屋のカギを開けて、我輩を出してくれた。
 
飼い主と帰ろうとすると、昨日の夜、話しをした犬が
 
「よかったな」って、一声かけてくれた。
 
我輩…何も言えなかった。
 
帰りに飼い主が
 
「朝まで探したんだぞ!…朝一番に、市役所に電話したら…おまえらしき犬が、ここに連れて行かれた
って教えてもらったんだ。 
オレは、今からお前が入り込んだ小学校に、謝りにいってこなくちゃならないから、
おまえはちゃんと留守番してろよ」
 
その、半年後、2度目の脱走をしてしまった。
 
あんな場所には2度と行きたくなかったんだけど、つい魔がさして…またふらふらと…今度も夜中、
飼い主が、近所の奥さんと立ち話をしている隙に…
 
今回は、すぐつかまった、なんか白と黒の車の制服を着た人に「戸塚警察署」というところに連れて
いかれて、その裏庭ににつながれてしまった。
 
翌朝の一番に、飼い主が飛んできた。
 
「臭い飯は…うまいか!」
 
今度は、さすがに反省した…もう2度とやるまいと誓った…以来、脱走はしていない。
 
 
昨年から、飼い主は家を留守にすることが多くなった。
 
どうも、病気のようだ。
 
飼い主が留守の場合は、プーヤンパパがやって来る。
 
飼い主が頼んだペットシッターのおじさんだ。
 
脱サラ…とかした人らしい。
 
飼い主の事情を分かってくれている人らしく、どうもいろいろとよくしてくれる。
 
プーヤンパパが来てくれる日は、近所をお散歩できる。
 
じゃんじゃん歩けるから…我輩としても、とても楽しい。
 
やっぱりお散歩だ。
 
一度、病院から帰った飼い主が、
 
「おまえさあ~オレがいなくなったらどうする?」
 
「おまえ、プーヤンさんの子になるか?」
 
と聞かれたことがある。
 
…まったく我輩を馬鹿にしている。
 
3日で恩を忘れない。これが我輩のプライドだ。
 
このときほど、人間の言葉を喋れないことを、くやしく思ったことはない。
 
噛み付いてやろうと本気で思ったが、よく考えれば…飼い主の気持ちも、わからないではないので、
まあ、許すことにした。
 
 
 
飼い主は、たまにミルキーの話をする。
 
「たあ君(弟さんの名前)の家で、ミルキーはほんとうに幸せそうだよ。
 
もう、おばあちゃんだから、体もあちこち弱ってきていて、
 
この前も、子宮の手術したらしいんだ。
 
でも、たあ君の家族が、優しく面倒見てくれているんだよ。
 
ほんとうに嬉しいね」
 
と。
 
我輩に限らず、犬の人生は短い。
だからこそ、大切にしてくれる人間に出会えるかは、重要だ。
 
特に、子犬の時代は可愛がられても、晩年までその幸せが続くとは限らない。
 
これも、我輩に限らない話し。
 
白内障になって、足腰がたたなくなって、おしっこやうんちを垂れ流しても…
そんなになっても、愛情を注いでくれる家庭に飼われていたい。
 
みんなそう願っている。
 
 
人間は2種類に分けられると、我輩は思う。
 
犬が大好きな人。犬が苦手な人。
 
でも、人間たちの間では、
 
「犬…普通に好きかな」
 
という人が存在する。
 
この「普通に好きという人」は、実は信用ならない。
 
意外と、口で「普通」と言っているだけで、実は、犬の可愛がり方を知らなかったりする。
 
ニコニコして、触ってくるくせに、我輩がじゃれようとすると、腰が引けていたりしている。
 
遊んでくれるのも始めのうちだけで、そのうち、「しつこいなあ」なんて顔をしたりする。
 
我輩を見て、
 
「大きい犬は苦手だなあ…」
 
などと、大きさのせいにしたりする。
 
でも、そうじゃない。それは苦手というのだ。
 
我輩にとっては、この「普通さ」的な人間は信用していない。
 
だから、種類は2つ。大好きか…苦手か。
 
中途半端は、よくない。人間の悪いクセだと我輩は思う。
 
 
犬に生まれて、飼われる以上…「大好き」という人に飼われたい。
 
 
 
 
 
先週の、土曜日は人が、大勢やってきた。
 
我が家の大掃除をするらしい。
 
なんと、来てくれたお兄さんのひとりが、我輩のことまで洗ってくれた。
 
とても優しいお兄さんで、その日、一日中、我輩のことを気にかけ、優しくしてくれた。
 
 
この人は「大好きな」人。
 
大好きな人は、我輩も大好き。
 
もっと遊んでいたかったのだが、
 
飼い主が、
 
「オマエ、掃除の邪魔だから、ゴミの番でもしてろ!!」


 
とカラス除けに、こんなところにつながれてしまった。
 
同じ、黒いからって…我輩は案山子ではない!!
 
と、思ったが、道行くご近所の奥様たちが、
 
「あらあ~かいちゃん おりこうねえ~」
 
などと言って、頭をなぜてゆくものだから、我輩、まんざらでもなかった。
 
…つくづく…悲しい性である。
 
 
我輩は犬である。名前は「かい」。
 
言葉は喋れないけど、理解は出来る。
 
よければ、会いに来て欲しい。
 
できれば、ケーキなど持ってきてくれると…なおよろしい。

コメント


読んでいてミルキーのことを思い出してしまいました。

預かった最初の1週間はホームシックなのかエサをぜんぜん食べなかったこと。
わたしとTちゃんがほぼ散歩に行ってたのに、やっぱりMさんにいちばんなついていたのが腑に落ちなかったこと。

実は私と隣のTちゃんとの間でいまだによくミルキーを預かっていた時の話をするんです。

わたし、犬というか生き物全般ちょっと苦手だったのですが、
ミルキーを預かって以来、そのへんの犬も平気でなでたりするようになったんです。不思議ですね。

Posted by いとうかずみ at 2008/10/29 03:29:33+09 PASS:
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